最初のエイド(W1)のSenaru RIMまでは登りが続きます。





スタート地点の標高が600mでSenaru RIMが2636mなので、2000m登りっぱなしです。

まずはここでペースを作ります。

スタート直後は軽くウォーミングアップ。

そして本格的に山の中に入り、少し選手がバラけて来たところでレースペースを作るのが、だいたいのパターンです。


最初に受けたトレイルの印象は、「雰囲気が日本アルプスの奥地に似ているな」と言うものでした。

標高が低いところは高い木々に囲まれた樹林帯で、サーフェイスはマッドで多少藪っぽく、根っこも沢山張り出していて、ところどころに堀のように削られた細い場所や、手を使って登る落差の大きな段差も沢山ありました。

斜度うんぬんじゃなく軽快に走って登れるトレイルではなくて、完全な登山道です。

植生も日本アルプスに近いのですが、より正確に言えば、もっと藪っぽくて鬱蒼とした感じでしょうか。

暗くて良く分かりませんでしたが、樹林帯というよりも、ジャングルと言った方がその雰囲気を正しく表現出来ているかもしれません。

道の途中でいきなりトラが出てきそうな感じでした。


ルートはほぼ一本道。

時折開けた場所に出たり、テント場に入ったりすることもあるのですが、木や岩などにくくり着けられたピンク色のテープが点々とあって、問題なく進むことが出来ました。

Rinjani100は異常なほどに完走率が低いレースで、私は「ひょっとしたら、コースマークが物凄く雑なのではないか」と少し不安を持っていたのですが、全くそんなことはなく、むしろ少し迷うような分岐などでは必ずスタッフが誘導してくれていて、とても丁寧な印象でした。



順調に進んで標高が2000mを超えると、少し植生が薄くなって来ました。

頭上が開けて、空を見上げると明るい月が煌々と輝いています。

マッドだったトレイルは砂っぽくなってきて、如何にも火山っぽい雰囲気へと変わってきました。


ああ、ワクワクする。


夜風が程好く冷たくて、火照った身体の熱を気持ち良く奪っていってくれます。

体調は良く、腰の痛みもすっかり忘れて快調に進み続けました。



やや細い岩稜を登ってコルに出たところにテントがあり、数人のスタッフが控えていました。

10.5km地点のSenaru RIM(標高2636m)です。

ここまで標高が2500mを超えてもペースが落ちること無く進むことが出来ていて、私はそのことに益々手応えを確かにし、迎えてくれたスタッフに笑顔で応えながら歩み寄り、チェックを受けました。

少し消費した水を補充し、エイドにあったバナナを一本頂きました。

バナナは日本で売られている物とは少し違っていて、太くて短く、皮が厚くて剥き難くて、いかにも野生のバナナ、という感じ。

味は何の特徴もない普通のバナナなのですが、なんとなく食べにくくて、2本目には手がのびませんでした。



スタッフに見送られてエイドを出発しました。

W1からW2の区間は、一度2000mまで下ってからの登り返しです。

まずは下りなのですが、この下りがとても険しいトレイルでした。

岩場の稜線と乾いたザレのミックスで、段差が大きく、落ちていくような細かいつづら折りの連続です。

夜間の深い闇の中だと、下を見下ろしてもその底が見えず、まさに奈落に落ちていく様な感覚がありました。

走ることは出来なくて、三点支持で下りていく様な場所もあります。

足を踏み外したらどこまでも落ちて行く様な下りが続くので、神経をすり減らしながら進みました。


険しい下りが終わると、湖のそばに出ました。

トレイルは湖畔沿いを巻くように続いており、途中途中で湖に流れ落ちる支流の渡渉が幾つもあるため、びしょびしょになって進みました。

Rinjani100のコースはバリエーションにも富んでいて、野趣溢れるトレイルでワクワクします。

"自然の中を走る"という、トレイルランニングの根源的な喜びの一要素と言っても良いその感覚を、強く感じさせてくれる素晴らしいトレイルだと思います。

それだけに、とても残念だったことがあります。



湖のすぐ側にはテント場があり、幾つかのテントがあったのですが、その周りは沢山のゴミが散乱していて、非常に汚かったのです。

このテント場だけでなく、レース中に通った全てのテント場が同じく、ゴミだらけでした。

プラスチックやナイロン製のゴミは、自然の中で分解されないから、ずっとずっと残ってしまうんですよね。

山の中で見るそれは、本当に本当に場違いで、穢れて見えます。

そのゴミだけじゃなく、周囲の自然も含めてその価値を貶めているように私には見えます。


インドネシアの山はとても美しくて、山の上から見渡す景色も、とても素晴らしかったです。

この湖沿いのテント場も、明るい時間に通ったら本当に美しい景色が楽しめる場所だったろうと思います。

しかし、そんな美しい場所でも、足元に目を向けるとゴミが散乱しているというのは、とても残念ですし、悲しい気持ちになります。


特に嫌な気分になったのは、明らかに選手が落として行ったものであろう、行動食の包装紙などまでトレイル上に落ちていたこと。

人の心理として、元々これだけゴミだらけなのだから、自分も少しくらい捨てても良いだろう、という気持ちが働くのかも知れません。

それは、同じ選手として恥ずかしいし、この山に対して申し訳なく感じてしまいます。


日本の山、日本でのレースだと、最近は運営側でもかなり気を使ってケアしているケースが多いと思います。

レースじゃなくても、日本の山におけるトレイルランニングの立ち位置そのものがまだ不安定で、そういう部分は凄くセンシティブだと思います。

その分野の啓蒙活動も、良く目にしますし、耳にしますよね。

正直、今まで私はその手の話にはあまり積極的じゃなくて、どちらかと言えばノータッチな立場をとってました。

当然、否定的な気持ちなんて全然無くて、大事なことだと思ってはいましたが、心の片隅ではちょっと煩わしさを感じたり、「そんなこと、言われなくても、言わなくても、出来て当然でしょ」と思っていた様な気がします。

誰かがそれを発信するのは良しとしても、自分がそんなことを口にするのは、なんだか優等生ぶっているみたいな気がしてしまって、それがきっと嫌だったんです。

でも、それって間違いだったのかな、と今は思います。



だって、リンジャニ山ってこんなに美しいんですよ。







山はやっぱり、綺麗な方が良いですよね。

美しいものを、美しいままに。

それがずっとずっと続いていけるように、自分がやれることは積極的にやっていこうと思います。