少し肌寒さを感じて目が覚めました。

時計を見ると、朝の5時半。

部屋の中にただ一つある小さな窓に目を向けると、外はまだぼんやりと薄暗く、人の気配も感じられませんでした。


まずは寝たまま腰の状態をチェック。

少し身をよじったり、手足を伸ばしてを左右に沿ったりして腰をほぐしてみます。

痛みは残っていましたが、心配していたよりも状態は良いように感じました。

今までの経験上、寝起きが一番腰の状態が悪くて、起きて動いている内に少しずつ楽になっていくのです。

これなら、何とかレースは走れるかもしれない。

自分にそう言い聞かせて、小さく安堵しました。


腰に負担をかけないよう、横向きになって腕を張り、身体を起こして朝ヨガをしました。

ヨガは以前から興味があって、部分的に取り入れてはいたのですが、本格的に取り入れたのは今シーズンからです。

ヨガの効能は多々あって、呼吸法やリラクゼーション、デトックス、内臓機能の正常化、フィットネスと柔軟性の向上、などなど挙げるときりがないのですが、個人的に最も期待し重視しているのは、『身体の連動性を高める』ことです。

ヨガのポーズを色々やってみると、自分の身体に全然使えていない部分が沢山見つかります。

その使えていない部分に意識を向けて積極的に使うことで、身体全体を使う複合的な動作で連動性が向上する。

つまり、よりしなやかに、より俊敏に、より安定した動きが出来ると思うのです。

とまあ、そういうつもりでやり始めたのですが、日々のルーティーンとなった今では、おまじないのような意味もあります。

トレーニングの前後、朝と晩にヨガをするのが日課なのですが、今ではやらないと気持ち悪いし、やるととても気持ちが落ち着くのです。

ヨガのポーズには「気持ちが前向きになるポーズ」などもあるのですが、これが不思議と、本当に前向きになれるんです。

たぶん、ポーズだけじゃなくて、呼吸や意識が関係しているんでしょうね。

静かに深く大きな呼吸をしながら、意識を自分の身体の中に向けている状態は、座禅などの瞑想状態に近いような気がします。

ヨガは場所を選ばないから、こうして海外に来ても日々のルーティーンをそのまま持ち込めるという点でも良いですね。

朝ヨガを終えた私は、良い意味でいつも通り、日本で過ごす日常と変わらない心境でインドネシアの朝を迎えることが出来ました。



7時に部屋を出ると、昨晩部屋に案内していくれたご夫婦らしき男女に声をかけられました。

グッドモーニン。

どうやら彼らがこのホテルのオーナーのようです。

私は朝食付きで予約していたので朝ご飯を所望したのですが、ご夫婦はこれからバイクでどこかへ出かけるところらしく、「今朝は朝食ないから、どこかで食べて」みたいなことを言って走り去ってしまいました。

結構適当だなー。

でも、天気は良いし、気持ちの良い朝です。

少し歩いて見て回りたい気分だったので、お散歩がてら朝食を探しに出かけました。



受付会場のあるSembalunは、リンジャニ山の麓にある小さな集落です。

まだ朝靄の残る村の中をのんびり歩いて周りました。






サバンナ地帯が多いロンボク島ですが、集落の周りは緑が濃く、朝はその緑色が一層映えて美しく見えました。

歩いているだけでも、とても気持ちが良いです。


村の中には舗装された道が一本通っており、道沿いには小さなコンビニと駄菓子屋を足して2で割ったようなお店や、登山客向けのホテル兼レストランなどが点々と立ち並んでいて、その建物越しには360度どこを見渡しても、大きな山々が目に映ります。

昨夜うっすらと闇夜に浮かんでいた稜線を朝日の中で改めて眺めると、いかにもハードそうな荒涼とした山容がはっきりと確認できました。

コースマップを見た限り、レースではここから眺める全ての山の稜線を踏破することになるはずです。

ため息と共に、笑みが浮かびました。


お腹も空いていたので食べ物を物色していると、メインストリート沿いに出ている屋台に目が留まりました。

屋台ではヒジャブ(イスラム教徒の女性が被る布)をまとった女性が何か食べ物を作っていました。

空港のタクシー運転手達はとてもグイグイでしたが、屋台の女性はそんなことはありません。

かと言って閉鎖的なこともなく、私がちょっと遠くから見ているのに気づくと、視線を合わせてにっこり微笑み、身振り手振りで「どうぞ」と促してくれます。

屋台には、野菜とお肉が沢山入ったそば飯みたいなものと、揚げたお団子みたいなものが並んでいました。

その場で試食させてくれて、どちらもスパイシーでとても美味しかったです。

味付けは日本人好みだと思います。

買おうと思ったのですが値札はなく、言葉も通じず、値段が分かりません。

そこで、2万ルピア札(約200円)を1枚だして「できるだけ沢山ください」と身振り手振りを交えて伝えると、そば飯2つとお団子10個をくれました。

相場は分からないけれど、損した気はしないですね。

私は結構大食漢なのですが、これでお腹いっぱいになりました。



朝食を済ませた後はレース準備をしました。

スタートは、その日の23時30分。

スタート地点は別のところにあり、そこまでは受付会場からシャトルバスで移動になります。

シャトルバスの出発が21時なので、それまで受付を済ませ、ドロップバッグを預けておく必要があります。

あらかじめ荷物は整理して持ってきていたので、中身の最終チェックだけして受付会場へ向かいました。


受付会場はHotel Nusantara。





そこで健康診断書の確認、装備チェックを受けたら、ゼッケンと参加賞を受け取って終わりです。

チェック作業は一つ一つ丁寧で、運営がしっかりしている印象でした。

各メーカーが出展していたので見て周っても良かったのですが、そこはスルーしてホテルへリターン。

人ごみが苦手なのもありますが、夜スタートなので、それまではなるべく身体を休めておきたいと考えていました。

着いた次の日にスタートとなると、分かってはいたもののバタバタです。


ホテルへ戻ったのが13時。

すぐに布団に横になりましたが、日本との時差は1時間しかないし、更に陽が高くなると冷房の無い部屋は日陰でもかなり暑く、ひっきりなしに走り回るバイクの騒音も耳についてなかなか眠りにつけませんでした。

それでも、心と身体を落ち着けて休めることが大事です。

ヨガをしてリラックスした後、アイマスクと耳栓をして、ひたすら深呼吸をして心を落ち着けました。


起きたり覚めたり、不確かな意識の中で数時間まどろみ続け、腕時計が振動して告げるアラームで目を開けました。

19時。

窓の外には既に夜の帳が下りていました。


いよいよだな。


少しく心拍数が高まるのを感じました。