銀座「さとき」で語り継がれる和食の心-金継ぎ後


 金継ぎをご存じだろうか。

 欠けたり、割れたりした器を、漆を使って接着し、

金粉を蒔いて蘇らせる伝統の技だ。

銀粉を使った銀継ぎ、銅を使った銅継ぎもある。


 いずれも、自然の素材のみを使って繕うので、

料理の味を損なわないし、何より安心である。

金継ぎを施した部分が“景色”と呼ばれるように、

継がれることでまた違う味わい、趣が出てくる。


 実はお店の常連客のひとり、Tさんは、本職ではないものの、

店主を唸らせる金継ぎの名人。

 器の片らひとつで見事な徳利まで作り上げてしまう技の持ち主。


 そこで、このたび、店主の発案で、店の空き時間に

金継ぎ講座を開催することに。今回はその話を少々……。


銀座「さとき」で語り継がれる和食の心


Tさん 金継ぎや銀継ぎの材料となるのが漆です。

漆の木の樹液を集めて濾過したものを生漆といって、

古くから日本や中国では、上新粉などと混ぜて、

接着剤としても使われていたそうです。

漆が持っている漆オールという成分が、

水分を加えると、一定の温度と湿度の下で、

空気中の酸素と結びついて固まるんですね。


――でも、その成分がかぶれの原因にもなるんですよね?


Tさん そうです。漆は、ほぼ誰でもかぶれますから、

必ずゴムやビニールなどの手袋をして作業し、

肌に漆がつかないように気をつけてください。

それから、残った漆をきれいに拭き取る消毒用の

エタノールも必需品ですね。


――はい。さっそく、お店で割れてしまった

器を用意したんですが、どれも継げそうですか?


Tさん そうですね。大丈夫でしょう。

それでは、まず、割れた破片を集めて、

片側から伸縮性のあるセロハンテープでつないで

元の形にしてください。


――まずはセロテープで復元するんですね。



Tさん 隙間ができないように、ぴったりとつないでくださいね。

――なかなか難しいですね。これでいいですか?


銀座「さとき」で語り継がれる和食の心


Tさん ちょっとあまいですけど、最初なので良しとしましょう。

そうしたら、下地用の漆を作りましょう。

砥の粉(石の粉)を少量のせ、すーっと線が引けるぐらいまで

水で伸ばします。ここに同量程度の生漆を加え、

ヘラなどで分離しないようによく混ぜます。

少量しか使いませんから、余ったら、空気に触れないよう

ラップに包んで輪ゴムで留めて、冷蔵庫で保存しておくといいですよ。



銀座「さとき」で語り継がれる和食の心

銀座「さとき」で語り継がれる和食の心

――この錆を割れ目に塗っていくのですね。

塗り方のコツはありますか?

Tさん 先の細いヘラなどで割れ目に塗って、漆を浸透させます。

なるべくはみ出さないようにね。釉薬を塗っていない器の場合は、

漆が滲んでしまうので、このように割れ目の両側にマスキング液を

塗って、滲まないようにしてから塗っていきます。


銀座「さとき」で語り継がれる和食の心


――縁が欠けてしまった器はどうしたらいいですか?


Tさん 土の粉を混ぜた粘土のようなものを作って、埋めていきます。

まず、上新粉を水で溶いて煮、糊状にします。

この糊3に対して、1の割合で下地用の漆を加えて、よく練ります。

ここに三辺地粉と呼ばれる粒子の細かい土の粉を同量混ぜて

さらに練り、穴を埋めていきます。この場合は、

少し多めに塗ってくださいね。へこんでいると、

この作業をもう1回繰り返さないといけませんので。

銀座「さとき」で語り継がれる和食の心



――ちょっと緊張しますけど、面白いですね。


Tさん そこまで作業をしたら、2728度の温度、
70%の湿度の室(むろ)に置いて、
固まるまで2~3日、

乾燥させます。


――自宅の場合は、どうやって乾かしたらいいですか?



Tさん タッパウエアの底に濡れぶきんなどを敷いて、

蓋をして置いておくといいですよ。

その時、漆を塗った部分がふきんにつかないよう、

工夫しておいてくださいね。漆のチューブは空気を抜いて、

冷蔵庫で保存しておください。乾いたら、もう片方も同様に塗って

同様にまた2~3日。そうすれば空気が入りませんからね。


その2へ続く。


text by Yuko Saito
photo by Hiroshi Yahata