他者の勝手な思い込みにより、人は違った人物になりきることがある。
それは、突然性格が豹変するとか、多面性が表れると云うことではない。
他者のイメージに因る「自己変身」である。
以前にもこんな事があった。
神戸三宮の交差点でタクシーを拾った。
会議に行く前であったので、昼過ぎであった。
行き先を運転手に告げた。
彼は、ルームミラーで私の顔を見ながら、「ああ、弁護士会館に行かれるのですね。」と言った。
私が告げた行き先には、弁護士会館がある。そして、その時私は、ダークブルーのストライプスーツを着ていたのだ。
きっと弁護士と間違えたんだろうっと思ったが、別に「違います。」と否定するのも面倒だったので、「ええ、まあ。」と答えた。
弁護士に間違えられるのも、悪い気分ではないなぁって、鞄の中から書類を出してそのふりをしていた。
すると、「ああ、取り立てですか。最近は、金を借りても払わない奴が多くて、オタクらも面倒ですなぁ。」って言うのである。
そして続けて、「最近は取り締まりが厳しくなりましたから、オタクらの家業も最近はたいへんなんでしょうなぁ。」というのである。
私の告げた行き先には、弁護士会館もあるが、近くには、指定広域暴力団の事務所があるのである。
弁護士だと思っていたが、よくよく見れば、やばい筋の人に見えたのであろうか。
面倒なので、
「わしらも、統廃合が進んで、大きなとこしか残るれんようになりましたわ。」
って言ってやりました。