段ボールの封は、破られるためにある
2019年12月に若年性アルツハイマー型認知症と診断されたうーちゃん。
2020年の出来事を回想しています。
診断されてから4か月でひとり暮らしを維持できなくなったために、姉である私の家に引っ越してくることになりました。
うーちゃんは、この頃、自分でメモを取ることが難しくなっていて、電話の内容などは思い出せないこともありました。
また日程調整や金額の計算が苦手になっていました。
引っ越しにはいろいろな段取りがありますが、うーちゃんはどれもピンとこない様子でした。
何がどこまで進んでいるのかもあいまいになり、問い合わせをしなおしで二度手間です。
私自身も、うーちゃんの認知症の状態を把握しきれておらず、2人でバタバタしてしまいました。
不動産屋さんとの連絡調整、引っ越し業者との見積もりや打ち合わせ、役所での手続き、水道・電気・ガスなどの手続き…、結局、すべてに一緒に手続きを進め、引っ越しは5月のゴールデンウィークとしました。
早々に段ボール箱が届き、張り切った様子のうーちゃんは「大丈夫、次にひぃちゃんが来るまでに、箱に詰めておくよ」と言うのです。
別の日に私が手伝いに行くと、ほとんど手つかずで、荷物をまとめることができていません。
そこで、服や本などを相談しながら一緒に箱に詰め、ガムテープで封をして、部屋の隅に積みます。
うーちゃんは、再び「大丈夫、次にひぃちゃんが来るまでに、残りも箱に詰めておくよ」と言うのです。
そして、次に手伝いに行った時、詰めたはずの段ボールの封はすべて破られ、物が散乱していました。
すでに『物の仲間分け』ができず、『いるか、いらないか』の判断もできなくなっており、何となく手に当たったものを近くの箱に入れている状態でした。
2度目の箱詰め(涙)、散乱した室内から物を選り分け、再び詰め終えた段ボールたち。
「今度はご無事で!」と祈りながら、クローゼットの中に積み上げ、扉を閉めました。
「クローゼットは触っちゃだめ!」と100回ぐらい唱えるように言い続けたら、
、段ボールの封は守られました。
家具や家電、カーテンや食器もほとんど処分することになってしまいました。
「仕方ないよね」といいながら、寂しそうな様子のうーちゃん。
自分のための快適な空間を手放すのは、相当な悔しさや悲しみがあると思いましたが、私は意識的に、なるべく事務的に淡々と作業を進めるようにしていました。