ぶっちゃけ、心が折れそうだ。
アインシュタイン先輩とかまぢパナかったんだな、って最近は常日頃思っている。
一年前のあの日、強く決意した目標がこんなにも遠いとは思ってもいなかった。
修羅の道だと分かっていたつもりだった。
しかし、見通しがえげつないほどに甘かったということだ。
「やっぱり、最初から俺には無理だったのかな…」
ブギーポップを本棚に戻しながら、ポロリと本音が溢れた。
ついでに涙も一筋溢れた。
本気でやり遂げようと思った事がうまくいかない。
なんて苦しいんだ。
逃げてばかりの人生の中で初めて全力を出して取り組んだ事なのに、褒めてくれる人もいなければ成功するわけでもない。
これが挫折か。
なんて苦しいんだ。
世間の人たちはこの感情とどうやって折り合いをつけているんだろう。
このまま科学を研究し続けるのが怖い。
しかし、諦めるのはもっと恐ろしい。
だって二度とあのオキニだった動画が見れないなんて耐えられないから。
涙は容赦なくあふれ続ける。
俺には止め方が分からないから、ただただ嗚咽するしかない。
誰でもいいから、止めてくれ。
苦しいんだ、悲しいんだ。
なぁ、誰か、助けてくれ。誰か、そう、ラフメイカー…__
その時だった。
ガンッ!!
ドカンドカンッッ!!
物凄い音が室内に響くと同時に
先ほどまでベットと本棚以外何にもなかった俺の部屋に、
ピッカアアアアン!!!
と輝く謎の物体が突如出現したのだ。
物体Xは2Mほどの高さでカプセルのような形をしており、なにやら扉らしきものがついている。
これは!!もしや!!
プシュー…。
カプセルの扉付近から空気が抜けるような音がした。
と、その直後、扉が勢い良く弾け飛ぶ。
あ、そうやってあくんだ扉。
いやいや、今重要なのはそこではない。
だってこれはおそらく、いや、絶対に!!
タイムマシンだ!!!!
未来の俺は成功したのだ!!
扉が吹き飛んだカプセルからは煙が上がっている。
そしてボディにぽっかりと空いた穴の奥に微かに人影が見える。
煙は徐々に徐々に霧散し、
人影の姿が明らかになっていく。
人影は一歩、また一歩とゆっくりこちらに近づいてくる。
…いよいよ、未来の自分との対面だ。
先ほどまで流れていた涙は完全に止まり、不思議な笑みが浮かんでくる。
俺は、成し遂げたのだ。
何十年くらいかかったのだろう。
もうじいさんかもしれないな。
いや、意外と若いのかもしれない。
…後一歩で、完全に顔が見える。
俺は生唾を飲み込んだ。
だって俺の。いや、「俺たち」の悲願が成就したのだから!!
さぁ、いよいよご対面だ!!
その煙の裏の姿は果たして!!
「一年の誤差はあるが、どうやら成功したようだな。」
そこには、ぜんっぜんしらねぇ若い男が立っていた。
ほんっとに心底しらねぇ奴だ。
しかもしらねぇ奴は上下白のピッチピチのジャージに身をやつし、5段ウエディングケーキの一番下くらいでかいテンガロンハットを被っていて、
ほっぺたにおにぎりの刺青を入れている。
しらねぇ奴はやべぇ奴だった。
完全に未来の俺パターンだったはずなのに、そこにいたのは完全にやばい知らない奴だった。
「え?え?え?誰誰誰誰?」
混乱する頭を必死に落ち着けながら状況を整理しようと無理やり言葉を捻り出す。
こんなやべぇ奴に会話が通用するかはいささか不安だが、試すだけの価値はある。
だってアイツ、「どうやら成功したようだな」とか言ってたし。
俺じゃなかったけど、多分未来からやってきたっぽいし。
「はじめまして、ひいお爺さん。
僕の名前は味噌下駄。
未来の世界からやってきた貴方のひ孫です」
白ジャージヤバ男は、
俺の予想の斜め上の事を宣った。
こんなやべえ見た目の奴が俺の子孫なのかよ。
未来のファッションセンスやばすぎるだろ。
ガイヤがお前にもっと輝けって命じたのか?
ていうか味噌下駄っつったか今。
未来のネーミングセンスやばすぎるだろ。
キラキラネームって次元じゃねえぞ。
あまりの不条理に俺はしょんべんを漏らしそうになったが、俺に子孫ができているって事はつまりそういうことでもあるわけで、なんだかお腹の下あたりがムズムズします。
俺は一体、いつどんな人とそういうことになるのだろう。私、気になります。
…いや、まて。
こいつのいう事を全て鵜飲みにするのは危険だ。
罠かもしれない。
普通に考えて未来人を自称する人間の言動を信じる事は愚かだ。
しかもこいつは相当にヤバい見た目をしている。
すると怪しまれているのを察知したのか、
味噌下駄と名乗るライスボール・タトゥーの男が微笑みながらいった。
「やっぱり、簡単には信じられないよね。
でも本当なんだよ。
この時代から一年前の今日からSMプレイの後遺症で亡くなるまでの間、ひいお爺さんはずっとタイムマシンについての研究を続けていたんだ。
その後研究はおじいさんが引き継ぎ、父さんが引き継ぎ、そして僕の代で結実した。
ひいお爺さんの携帯端末の中に入っていた、国家の存亡を揺るがす機密データをサルベージするためにね」
なんだか話が大事になってしまっている。
しかも俺は、SMプレイのせいで人生に幕を引くらしい。
しかし、味噌下駄くんの言っていることはどうやら本当のようだ。
だって俺はタイムマシンの研究を始めた事を友人はおろか親にも漏らしていないのだから。
(そもそも友人はいないが。)
突然現れたカプセル状タイムマシンの説明だってつかない。
国家機密なんて馬鹿でかいスケールになってはいるが、スマホを直したいという動機はあっている。
当然このことも知るものはいない。
スケールが大きくなっている理由も想像がつく。
大方研究の動機がエロ動画のためだと知られたら恥ずかしいからついつい嘘をついて盛ってしまった、とかそう言った感じの理由だろう。
つまりヤバヤバファッションセンスの味噌下駄とかいうふざけた名前の男が俺のひ孫ということは事実であるようだ。
まったくもって悲しい話である。
「ひいお爺さんはずっと引きこもりのニートどったのに国家機密を取り戻すために義憤に駆られてタイムマシンの開発をはじめたんだよね。
小学生の理科から勉強をしなおして。
僕はひいお爺さんと会ったことはなかったけれど、その話を父さんに聞かされて育ったんだ。
だからとっても尊敬しているよ」
罪悪感が疼いた。
義憤とか国家機密とか丸々嘘でエロ動画のためなんだわ。
でも、さすがに真実を告げる度胸はないので、
曖昧な表情でゆっくり頷いておくことにする。
そうするとなんだか深いリアクションをとっているかのように見えるから、表情に困ったらオススメだ。
すると、味噌下駄くんは目を潤ませた。
いや、ほんとやめてくれ。
引くに引けなくなっちゃうから。
「そ、そうだ!!
味噌下駄くん、2つ聞きたい事があるんだけどさー。
まず1つ目なんだけどね、俺はタイムマシンの研究にどのくらい貢献できたの?」
ちょっとあの空気のままだと耐えられないから、無理やり話題を転換する。
まぁ、実際聞きたいことではあったので満更でもないのだが。
知識がないとはいえ、動機が不純とはいえ、初めて本気でやり遂げると誓った事の成果は聞いておきたい。
先ほどまで挫折しそうになってはいたが、死ぬ直前まで研究をしていたということは俺はあの後立ち直ったという事だろう。
死に方はともかく、この俺が折れる事なく生涯を研究に捧げたというのはなんとも誇らしい事だ。
自らの手で完成させる事はできなかったが、俺にも一生懸命になれることがあったのだ。
意外にも科学の才能があったのかもしれない。
タイムマシンこそ作れずじまいではあったけれど、基礎となる理論までは組み立てて死んだのかもしれない。
「ひいお爺さんは高校3年生レベルの科学知識を身につけた後、帰らぬ人となったって聞いているよ。
だから別段タイムマシン開発には関与してないんだ。
でも執念がもの凄かったから、街の皆からも地域の名物おじさんとして応援されてたんだって。
働かずに親の遺産で生活をしながら、ライトノベルと教科書を読み漁り、タイムマシンタイムマシンと叫び散らすその姿は多くの人に愛されたんだよ。
タイムトラベルじじいって愛称もついてたぐらいさ。
自分の知能や学歴に挫けず、国家機密を守るために戦うその姿は人々の胸をうったそうだよ。
祖父もその1人さ。
祖父は高校の時に決意したそうだよ。「親父が戯言いう限りクラスメイトにいじられるからタイムマシン開発を実現させてやる!!」って。
結果祖父の才能は半端じゃなくて、一代でタイムマシンの基礎理論を作り上げたんだ」
俺、マジで何にもしてねぇじゃん。
地域のヤバい名物おじさん扱いされてるじゃん。
息子俺のせいでいじめられてるじゃん。
やっぱり、素人がいきなりタイムマシンを作ろうとするのは無理があるっていうことがよーくわかった。
一瞬でも自惚れた自分を殴りたい。
まぁでも、俺が一生懸命勉強した結果、タイムマシンの作成に繋がっていく…って考えると俺の存在ははちゃめちゃに重いのではないだろうか。
だって、俺がいないとタイムマシン開発されないって事だろうし。
やっぱり俺はすごかったのだ。
ポジティブに捉えていこう。よし、次の質問だ。
「なるほどね。
俺の息子が天才だったんだね。よーくわかったよ。
じゃあ2つ目いいかな。
俺の初体け、じゃなくて、奥さんのことなんだけどね?」
こっちの詳細は是が非でも聞きたい。
だって子供がいるってことは、ねぇ?そういうことじゃん?
願わくば可愛い人であってほしいが、性格が良ければ最悪雌ナメクジでもいい。
「ああ、ひいお爺さんに奥さんはいないよ。
ひいお爺さんが祖父を産んだんだ」
は?
なにいってだこいつ。
その3へ続く。
2で終われなかった。