(趣味でフルートを吹いています。吹き方についていろいろ試行錯誤してきたこと、その時々の思いなどを折りに触れて書き加えてきたものです。もし何かお気付きの点、アドバイスなどありましたらお願いします<※最終更新 2024/07/20

>)

 

◯アンブシュアどうすれば?
 自己流で始めたフルートなのですが、いまでも自己流で吹き方、特にアンブシュアがほとんどわかっていません。もしもフルートのアンブシュアは「これです!」という決定版があるのなら是非知りたいと思うのは私一人ではないと思います。

 教則本や解説書にはある程度のことは書いてありますが、その通りに吹いたつもりでも実際の音はガッカリなものですし、さらに自分が知りたいと思う細かな部分に関して書いたものは見つかりません。

◯自分で見つけるしかない?
 フルートの雑誌を見ていたらかなり有名なプロの方が「人の顔が皆違うように、口の中の状態も違う、アンブシュアは千差万別、人それぞれに最適なものがあって一概に言うことは出来ません」と書いておられました。

 

 その後フルート教室に行った時も講師の先生からやはり同じような事を言われました(仕事の都合で別の教室に移ったときも同じ事を言われました)。そもそも「自己流で吹いていると悪いクセがついてしまうから是非レッスンを受けに行くことをお勧めします」と言われているから習いに来たのに、講師の先生方の言葉は衝撃的でした。

 

要するに決まったアンブシュアはなくて、自分に合ったアンブシュアを自分で見つけるものなのだとようやく理解したのでした。

 ただ、フルート教室の講師の先生からフルートを深めていきたいならやってみるといいですよと「ソノリテについて」と「タファネル・ゴーベール17のメカニスム日課大練習」を勧められたのは幸運でした。とはいえ、配送が届いて中を見てみたら、初心者には到底ムリっぽい細かな音符や♯・♭が満載で目の前真っ暗!? という感じでしたが・・・。

◯「ソノリテ」と「タファネル・ゴーベール」しかし、その前に・・・
 今にして思えば「ソノリテ」と「タファネル・ゴーベール」が大切だと教えてもらったのは幸運だったのですが、そもそも自分の吹き方が自己流なので、音がきちんと出せないままで吹いていると自分の音に飽きてくるし、それにもまして上手く吹けないところがあまりにも多すぎてモチベーションがどんどん下がっていきます。まずは、少しでもまともな音が出る手がかりが欲しいと思っていました。
 

◯手がかりはネット情報?
 そのうちインターネットでいろんな情報が入ってくるようになります。フルート奏者が自分のホームページやYouTubeなどの質問コーナーなどでフルートに関するいろいろな疑問や悩みに答えてくれるようになりました。質問者はたいてい楽器は初めてという部活動の生徒さんたちですが、私にとってはちょうどレベルが合っていてたくさん勉強させてもらっています。

 しかも嬉しいことに、プロの演奏家がアンブシュアについてけっこう具体的に説明をしてくれています。素人がどうしたらいいのか分からなくて困っていることについて説明してくれているのでやる気が出てきます。説明をしてくれるプロ奏者は次第に増えてきて、知りたかった情報がどんどん公開されるようになってきました。以下、私がとても興味深く思った動画や関連するアドバイスを紹介します。

 

 

1.ジェームズ・ゴールウェイ 「マスタークラス アンブシュア」から

 


① 奥深いテーマ
 まずゴールウェイの動画に注目しました。タイトルに「マスタークラス アンブシュア」の文字があります。アンブシュアについて説明しているから初心者向け講座かと思ったのですが、意外にもマスタークラス!?の講座でした。アンブシュアは初心者だけでなくマスタークラスのレベルになっても追究していかなければならない奥深いテーマだということなのでしょうか。

② 下唇を前に突き出すのはなぜ?
 ゴールウェイはアンブシュアを作る時に下唇裏側を大きくめくって斜め上方に突き出し、その上に上唇を載せてから下唇(下アゴ)を手前に引いていきます。もちろん分かりやすくするためのオーバーアクションでしょうが、ここで連想した言葉を並べてみます。

 ・上下唇のぬれた部分を息が通るように吹くと音が綺麗になる   植村泰一

 ・初めに下唇の裏側、次に上唇の裏側に息が当たって息が出ていくようにする   マルセル・モイーズ
                               
 息の出口がざらついていたり、力が入って固くなっていたりすると、物理学で言うところの「回折の原理」で息が散ってしまうということが知られていますから、両唇裏の粘膜を使ってなめらかに息を送り出しなさいと言っているのだと思います。

 

 唇のアパチュア周りに余分な力が入っていると雑音が混じった息になります。逆に唇のアパチュア周りが柔らかいと雑音のない息が出てきます。このとき出てきた息を手で触ってみると、アパチュアの形の楕円形のまま細長く伸びた棒のような息を感じ取ることができます。

 

 この吹き方を意識して音を出してみると “太い” “柔らかい” “芯がある” “響きに広がりがある” “倍音が豊富” “輝きがある” “音のつながりがなめらか”といった感じが少しずつ出てきて、結果的に遠鳴りする豊かな音が目指せるという気がします。

 

③ 下アゴの効果  

 

 a 息のスピードを安定化
 下唇が動いていると同時に下アゴも動いているのも見逃せないと思います。動いている方向は下唇裏側と同じく斜め上方です。これに関連して思い出したのは

 ・あごを斜め上に突き出すようにすると歌口と唇が近くなる     吉田雅夫

 ・歌口と唇の距離は近いほど息のスピードが有効になる 

                         ジェームス・ゴールウェィ

 私は一定時間吹き続けて疲れてくると無意識にアパチュアが開きっぱなしになりがちです。すると音に焦点がなくなったり、音の跳躍で息のスピードが落ちてしまって音ミスしたりしますが、下アゴをコントロールして下唇を上唇に寄せることでかなり防ぐことが出来るようになりました。

 

 ただし、下アゴは吉田雅夫氏の言うように「斜め上」が必要で、水平にしてしまうと疲れやすく、同時にアゴの関節が痛み出してしまうので要注意です。

 b アパチュアの安定化
 なお、ゴールウェイが唇の両端を下げるようにしなさいと言っているかのようなしぐさをしていますが、これも上唇が開き過ないようにコントロールする意味があるような気がしています。

 

 下アゴを斜め上方向に固定することで下唇が上唇に近くなり、さらに口の両端を下げ気味にすることで上・下唇の距離をさらに近づけることが出来るし、息ビームの勢いでアパチュアが必要以上に開いてしまうことを防ぎやすくなりました。

 

 また、アパチュアの基本形について大塚ゆき氏は「アンブシュアの基本的な考え方」という動画の中で「閉じた唇が息の圧力でできる穴が基本です・・・穴を作る、ではなく息を出して穴ができるようにする・・・」と語っていらっしゃるのもとても参考になります。

 

 上下唇が柔らかく接しているところへ息の圧力をかけると自動的に開いて上下唇の粘膜によってまとめられた息ビームが出るというわけです。この「閉じた唇」を安定的にキープしてくれるのも下アゴの効果のひとつだと思います。上のゴールウェイの動画でもその様子がよく見えると思います。

 

 ちなみに「タファネル・ゴーベール」のEJ4を♩=120で吹くと15分ほどかかりますが、アゴと口の両端を意識するようになってからアンブシュアのコントロールがかなり楽になりました。かりに途中でアンブシュアがゆるみがちになって音の芯がなくなりがちになっても、下アゴと唇の両端を意識することで容易に立て直すことが出来るようになりました。

 

 c 息ビームの角度を安定させる
 さらにゴールウェイの動画では下アゴを斜め上方に突き出したあと徐々に手前に引き下げながら、息のビームの角度が最も良い場所で止めています。アゴを出す角度を覚えてしまえば息ビームの方向は固定しやすいとわかりました(私の場合は上下の歯がほぼ同一面の位置関係になっているところです)。

 

 下アゴの角度を調整しながら最も良いと思える音色が出る位置(角度)を探して安定させると、音程や音色が安定するし、いろんなアーティキュレーションにも対応しやすくなりました。

 d リッププレートの安定
 下アゴを斜め上方に出すとリッププレートが下アゴに貼り付くようにぴったりくっつきます。これは楽器の安定という意味で効果が大きいと思います。以前はフルートを持つとパイプ類の重みで管全体が手前にどんどん倒れてくるので困っていました。しかし下アゴを斜め上方に出してリッププレートが倒れてくるのを下アゴを出してこちらから受け止めてやるようになってから三点支持がとても楽になりました。

 フルート奏者の上坂学氏は「リッププレートが下アゴ内側の歯と歯茎にぴったり当たっている感覚」が楽器を固定し、音質・音程を安定させると述べていました。リッププレートは曲面ですが、下アゴ内側の歯と歯茎に当たっているときの感覚は曲面ではなく、あたかも平面が当たっているかのように思えるのが不思議です。

 

2. 息の支えが主体、アンブシュアは補助?!

 

 理想的なアンブシュアのことを探っているときに佐藤直紀氏(チェコフィルハーモニー管弦楽団首席フルート奏者)の『フルート奏法私論』で大変興味深い記事を見つけました。氏は「アンブシュアの役割」という項目の中で「フルートの音色にはアンブシュアが重要だと思いがちですが、本当に大事なのは身体や息の使い方です」「フルートの音色はアンブシュアで作るものではなく、お腹の底からよく支えられた息から良い音が作られます」(『フルート奏法私論』佐藤直紀氏)と書かれています。

 

さらに氏はかのミシェル・デボストの『フルート演奏の秘訣』を引き合に出して(以下、『フルート奏法私論』から引用)

 

 

フルートの音色にはアンブシュアが重要だと思いがちですが、本当に大事なのは身体や息の使い方です。

 

アンブシュアはその補助的役割にすぎません。

 

デボストは前述の著作『フルート演奏の秘訣』の中で、アンブシュアは車のハンドルのようなものだと書いています。

 

いくらハンドル(アンブシュア)が立派でも、貧弱なエンジンを積んでいてはスピードを自在にコントロールすることができず、良い車とは言えないでしょう。


良い車とは良いエンジンを積んだ車です。

 

良いエンジンとはフルートの場合、良い息の支えと言えるでしょう。


フルートの音色はアンブシュアで作るものではなく、お腹の底からよく支えられた息から良い音が作られます。

 

アンブシュアはその補助的役割にすぎません。(以上、佐藤直紀氏)

 

 

と書いています。ミシェル・デボストの言うハンドル(アンブシュア)とエンジン(息の支え)のたとえや佐藤佐藤直紀氏の「フルートの音色はアンブシュアで作るものではなく、お腹の底からよく支えられた息から良い音が作られます」という言葉は私にとってまさに目から鱗が落ちる思いで、音作りの大切なポイントを教えてもらった気がしています。


 これまで私はより良いアンブシュアを追い求めるあまり、大切な息の支えということをおろそかにしていたということに気付かされました。確かに、いつもの通りにアンブシュアを構えているのにいつもの音が出てくれないという迷宮に入り込んだことは何度もありますが、特に呼吸法がうまく整わない時が多かった気がします。体が疲れていて呼吸法がうまくコントロールできなかった(息の支えが出来ていなかった)場合は思うような音になっていなかったことに思い当たりました。

 

 

3. 息の支えとは?

 

ではよく言われる「息の支え」とはどんなのもなのか、現在私がよりどころとしている「息の支え」の考え方を二つ挙げてみたいと思います。一つ目は上坂学氏の次の記述です。
 

① 上坂学氏の息の支え 

 息を止めると言うことは、吸うという動作と吐くという動作が釣り合って止まっている状態なのです。これがお腹の支え・息の支えの実態です。息を吐きながらも(音を出しながらも)常に腹筋に息を吸う方向の力が加わっているということです。息に手綱を付けてコントロールするかのように、一気に息が吐き出されないよう、また、思うとおりの強さの息になるよう、呼吸のメカニズムの一部である腹筋を使ってコントロールするわけです。(上坂学「フルートクライス」より)

 

 

 要するに”いっぱいに吸った息が必要な分だけ出ていくように腹筋(横隔膜)でコントロールする”ということでしょうか。このことを意識してフルートを吹いているときブレスコントールが思うようにできているのを感じます。さらに次の葛島涼子氏の動画も大変参考になっています。

 

クズシマクラリネット(葛島涼子氏)によるお腹の支えについて

 

② 葛島涼子氏の息の支え 

 楽器はちがいますが同じ吹奏楽器として大いに参考になっています。特に1分24秒からの「息の支えがある(お腹で息が支えられている)とは? 吸ってお腹が膨らんだ後にお腹が凹まずにキープされている状態」という説明は上坂学氏と一致しています。

 

 また、4分23秒からの「(キープするために)力を入れる場所は”点”で感じたい」では、タイプA「みぞおちより少し下辺りを意識する」・タイプB「たんでん(おへそから数センチ下のところ)辺りを意識するとお腹に力を入れやすい」という二通りの方法を提案しています。私の場合はタイプBに当たりますが、いわゆる「丹田呼吸法」に通じる方法なのかなと思います。

 

これらの説明を意識して息の支えを活用するようになってから自分の音色が変わったと思えるようになったのがうれしいところです。またアーティキュレーションの表現が以前よりコントロールしやすくなったし、さらに音の通りも改善されたようで、演奏会場の壁に当たって返ってくる音が以前よりはっきり分かるようになりました。


 

4.空気をたくさん取り入れるために

 

 ① 歌を歌うときの基本姿勢  

 「良く支えられた息が良い音を作る」ということが分かったのですが、「良く支えられた息」をつくるためには空気を体に十分に取り込まなくてはならないわけで、空気を深く吸って体の中に十分取り入れられるような体勢を作らなければなりません。特に私の場合は普段の姿勢が猫背気味な傾向があって、それなりに工夫が必要でした。

 

 要は姿勢をまっすぐにすればいいわけですが、頭では分かっていても演奏に気をとられると気付かないうちに姿勢が悪くなって息が入らず音に張りがない、フレーズが保てないなどの悪循環におちいって演奏が崩壊!していることがあります。

 

 何か対策はないものかと考えているうちにふと思いついたのが歌を歌うときの基本姿勢でした。よく言われる“頭のてっぺんが糸で引っ張られるようなイメージ”の姿勢です。YouTubeでMyon氏が呼吸法の有力な体勢作りの1つとして紹介していました。

 

 これはメリットがたくさんあって、額や鼻も上に引っ張られる感じがして息の支えを作る体勢が自然にできる気がします。頭が上に引っ張られる感じに連動して、唇を閉じたまま歯と歯の間隔を開けると軟口蓋が開いて中高音が共鳴しやすくなり、音に輝きが生まれやすくなります。

 

 この“軟口蓋を開く”というのは声楽の分野でよく使われる用語ですが、吹奏楽器でもかなり有効のようで、疲れて楽器をふいていると音がくすんで生き生きしないなという時に歯と歯の間隔を開いて鼻から深呼吸するように鼻の穴の奥を開くと副鼻腔で共鳴が発生し、たちまちに音がキラキラしてきます。

 

 ② 「肋骨・腹式呼吸」という呼吸法

 また胸骨を上げながら両肩を下げるようにすると肋骨が開き、同時に喉が広がり(音の共鳴も発生する)息が入りやすくなります。この方法は植村泰一氏が推奨していたレオ・コフラーの「肋骨・腹式呼吸」に通じます。これは胸腔を拡げた上で腹式呼吸を行う呼吸法で、腹式呼吸を上回る肺活量が生み出せることがデータで示されていました。

 

※軟口蓋を開けて副鼻腔で中高音が共鳴している一方で胸骨は低音を共鳴してくれているように感じます。これはゴールウェイが楽器の音を体中で共鳴させなさいと言っていたのと重なると思います。“「豊かな音」を作り出すために「重要な要素は口の内部・・空洞を意識しましょう・・・よい音を作るのに必要な隙間です」「胸も開いていなければなりません・・喉と胸を広げていると、身体全体が響板になってフルートを助けます。」(『フルートを語る』吉田雅夫訳)”と言っていました。

 

 私なりに感じているポイントは“深呼吸する体勢をイメージする“ことかなと思っています。唇を軽く閉じたまま、あくびをかみ殺すように歯と歯の間隔を開けて鼻から空気を深く吸い始めると、歌を歌うときのように軟口蓋が開き、連動して胸骨が上がって胸腔が拡がり、丹田にほどよい緊張が生まれ肺に空気が流れ込んできます。

 

 この丹田のコントロールは時々うっかり忘れてしまうことがあるのですが、常に働いているようにするために足の指先を靴の中で手前側に少し曲げるようにしています。こうすると丹田にほどよい緊張が自然にできて持続します。これはプロの方(名前が思い出せません)が話しておられたのを試してみたら上手くいったのでそれ以来実践しています。先述のMyon氏は「足の裏を床にしっかり付ける」という表現を使っていらっしゃいますが、おそらく意味的に重なるのではないかと思っています。

 

 これまではとかく本番になると緊張感から喉が締まって息が入らず、音色も音量も崩壊して練習の時ほど集中できないのが常でしたが、この“深呼吸する体勢“をイメージすると息がよく入って息の支えが整うから、練習時の音色や表現などが再現できるし表現にも集中できるようになりました。

 

 本番で調子が出ない、でも原因がなんだか分からない、というときにこの姿勢と呼吸法を意識し直して何度も救われています。また息の支えがしっかりしていると余分な緊張感を忘れている感じもしてきます。丹田を使うとストレス耐性とかリラックス効果を期待できるという話もあるので、もしかしたらそのおかげなのかなとも思っています。

 

5.モイーズのエア・タンク・メソッド(圧縮共鳴室作り)の応用
 

 ①息の支えを適切な息ビームに置き換える
※肋骨・腹式呼吸の体勢で呼気が蓄えられましたが、次にそれをいかに最適な息ビームに置き換えるかを考えなければならないと思っています。それはデボストの「息の支え=車のエンジン・アンブシュア=車のハンドル」の捉え方に沿って言えば車の”ハンドル”に当たるわけで、息のパワーをいかにコントロールして良い音に結びつけるかという点も重要になってきます。

 

その方法を探っていたらモイーズの奏法が目にとまりました。高橋利夫氏は自著『モイーズとの対話』の中でモイーズの「モイーズのエア・タンク・メソッド(圧縮共鳴室作り)」について次のように書いています。

 腹式呼吸のための肺はいわば大きなエア・タンクである。大きな空気の柱をコントロールしている。しかしこれは高圧の電気みたいなもので、これを一般家庭で使うには変圧器でもってもっと低圧の電圧にしなければ細かい仕事には使えない。高圧のままアイロンでもテレビでも使ったら皆こわれてしまう。つまりこの変圧器の役目をするのが口内なのである。
 

 したがって太い息を口内で一度蓄積、圧縮し糸のような細い、しかも粘りのある息にしてやらねばならない。・・・中略・・・唇を軽く横に張った状態で上下唇裏に空気を蓄めねばならない。・・・中略・・・空気を口喉に感じながらその増減によってオクターブを吹き分けるのである。空気圧が高音などで高いときはその圧力で口喉内が張ってふくらんでいるような感じを受ける・・・(『モイーズとの対話』より引用)

 ②「エア・タンク・メソッド」の応用とその効果
 肋骨・腹式呼吸呼吸によって得られた大切な息の支えをいかに有効に使うかという意味でエア・タンク・メソッドはとても参考になっています。息の圧力を口内で増減しながらオクターブを吹き分けることはもちろん、音量の強弱、音色の変化などを吹き分けたり、なにより長いフレーズを張りのある音で吹き続けられるなどとても助かっています。

 モイーズはエア・タンク・メソッドを使うために軽く閉じた上下唇の裏側に息を当てる方法を鼻の下を伸ばす特徴から「馬面奏法」と呼んでいます。この鼻の下を伸ばす方法はメリットが他にもあって、歯と歯の間を開けると同時に口の中が開いて口内の共鳴、さらには連動して軟口蓋も開いて鼻腔内共鳴(声楽でよく使われる)が起こります。この鼻腔内共鳴によってキラキラした倍音がはっきりと感じられるようになります。

   

 モイーズは息の使い方を、初めに下唇の裏側、次に上唇の裏側に息が当たって息が出ていくようにする、と具体的に述べています。この方法に沿って私は上唇の裏側の鼻の下から左右の口角までのデルタ地帯全面に息を当てるのを基本のポジションにしています。この方法だとまず音量と響きが豊かになり、音色も基本的に太く・柔らかくなるので他の音色への変化にも対応しやすくなります。

 

 その上で鼻の真下あたりを中心に息を集めると息のスピードが最高に高まる感じがします。音の芯が出て倍音がキラキラ感じられ張りのある音になる気がします。また中・低音から高音に跳躍するときはここに息を集めるように意識すると楽に転回できます。

 

 上唇の裏に息の圧力をかけると上唇がめくれそうになってくるので、めくれすぎないように上唇を微妙に調節する必要があります。モイーズが言うように唇の柔軟性が損なわれないように必要最低限の力で下方向へ引きます。ただし、アンブシュアの形をあらかじめ作って吹くことを意識するのでなく、口内圧力によって上唇がなびいている形を優先して必要な分だけ(思い描いている音色や音量など)上下の唇の粘膜を近づけるようにしています。

 

※先に触れた大塚ゆき氏の「閉じた唇が息の圧力でできる穴が基本です・・・穴を作る、ではなく息を出して穴ができるようにする」という言葉とも重なると思います。そういう意味でアンブシュアというのは音の必要度に応じて出来た結果論?のような気がしています。これと関連していると思われるフルートありた氏の動画も大変参考になります。

 

 

上の動画の3分14秒からの”フルートは吹くではなくて吐く”という説明と実演が大変参考になります。”吹く”とアンブシュアが硬くなって雑音が増え、音がきつくなってしまうけれど、”吐く”ようにすると音がきれいになって響きが増えると説明していますが、この”吐く”ような奏法こそ息を上唇に当てた音作りなのだと思われます。


 ③ブリアコフの奏法と重なる部分

 

 

 モイーズの「エア・タンク・メソッド」を読んでいて連想したのがブリアコフの動画です。
特に2分05秒からの「唇と歯の間に空気を取り込む(満たす)」という言葉が注目されます。ブリアコフはこの方法を息の角度とか唇の柔軟性を保つという観点で語っていますが、息ビームの圧力の調整にも使っている点で結果的にモイーズの「エア・タンク・メソッド」と重なるところがあると思います。

 ④本番前の確認事項
 ミシェル・デボストや佐藤直紀氏の言葉の通り息の支えは良い音の原点になっていますが、それをいかに活用するかという点でモイーズやブリアコフの言う口内圧力をコントロールする方法がとても参考になっています。


 いつも本番は冷静さを保つのが難しく、緊張感から大切なことが頭の中から消えてしまって練習で無意識に出来ていたことが急に出来なくなることが何度もありました。そういう失敗がなくなるように大切なことを3点いつも確認することにしています。特に姿勢と息の支え・口内圧力のコントロール・唇の柔軟性・・・・この3点は本番直前だけでなく、本番中も調子が落ちてきたのが分かったとき思い出すことにしていて、それで助かったことが何度もあります。

 

 

6.自分なりのアンブシュアを目指す
 

 吉田雅夫氏によるとモイーズの「ソノリテ」は「タファネル・ゴーベール」を練習しやすくするための補助教材的な意味で書いたのだということです。私の場合はさらに「ソノリテ」以前の手引きも必要だったわけですが、様々なプロの方々のYouTube動画やネット・書籍情報のおかげで“ある程度の音作り”ができました。 

 

 冒頭にも書きましたが、かなり有名なプロの方の「人の顔が皆違うように、口の中の状態も違う、アンブシュアは千差万別、人それぞれに最適なものがあって一概に言うことは出来ません」の言葉は、初めは突き放されたようで一種衝撃的でしたが、自分に合ったアンブシュアをいろいろ調べていくにつれてだんだん納得できるようになってきました。


※かつて、ムラマツフルート主催のフルート講師による演奏会というのを聴きに行ったことがありました。たくさんの講師のみなさん(おそらく50人以上だったと思います)の素晴らしい演奏を聴いて演奏のたびに感動が起こってきたのは今でも忘れられませんし、フルートの音のイメージがますますはっきりしてきたのを感謝しています。

 

※その貴重な体験の中で私なりに特に忘れられないことがあって、講師の先生が一人ずつ5分程度の小品を演奏して次の方に交代していくのですが、どの方もどのかたもフルートの音色がみな違って聴こえるのが私には不思議でしかたありませんでした。

 

※皆さん名の知れた一流のプロの方々ですから独自の音色を持っていらっしゃるのは当然でしょうし、楽曲や楽想ごとにねらった音色もあるでしょう(楽器はほとんどの方がムラマツでした。ステージに近い私の座席から例の「C」のマークが見えました)。それでも演奏者の基本的なカラーはそれぞれ違っていて50人いたら50通りの音があるという印象は拭いきれませんでした。

 

※私は自分がお手本とすべきフルートの音を耳に刻みつけようと思って出かけてきたのですが、その想いとは正反対にフルートには吹く人それぞれの音があるということを知ったのだと思っています。一流のフルーティストは人によって皆違う音を持っている・・・それはその吹き手が創り上げてきた独自のアンブシュアによるのかもしれませんし、ゴールウェイの言う体全体に音を共鳴させる効果から生じる個性の違いなのかもしれません。

 

 良い音づくりは永遠の課題と言われます。上手くいった・・・と思ったらだんだん粗が見えてきてガッカリの繰り返しが実情です。それはたとえば頂上にたどり着いたと思ったらそれはゴールではなく、単なる途中経過だったという『西遊記』の孫悟空の話みたいでもあります。しかし逆に考えてみると、永遠に課題が続くということはチャレンジ次第でたとえわずかであっても少しずつ解決していく喜びが日々味わえるということでもあるわけです。

 

  音出しの時いつもの吹き方ができるようになってくると、それをふまえてさらに新しい吹き方はないかと可能性を探ってみることがあって、たまにそれがうまくいって今までにない音で吹けるようになるということも増えてきました。それを「ソノリテ」や「タファネル・ゴーベール」その他練習曲などを通して確かめ、修正していくのが楽しく、楽曲挑戦のモチベーションになっています。そういう意味で自分に合ったアンブシュアを探る楽しみがどんどん増えてきている気がしています。

 

 

わがやのねこです。おもちゃのネズミにとびかかろうとしています。敷物の下にもぐってタイミングをはかっているところです。