(趣味でフルートを吹いています。吹き方についていろいろ試行錯誤したこと、その時々の思いなどを書き加えてきました。もし何かお気付きの点、アドバイスなどありましたらコメントお願いします<2024/6/7 最終更新>)

音出しのこと その1

いつも音出しの段階から苦しみが始まります。
初めは良い音が出ていたのにだんだん変な音になっていって、回復不能のままで練習時間終了になってしまった、ということがよくあります。

聞くところによるとフルートは前日までの音の調子を楽器本体が覚えているのだそうで、私の場合は前日に良く吹き込んで良い音を出してくれていたのをいいことにして、いい加減な吹き方で吹いていくうちにだんだんダメな音にしてしまったわけです。こういう場合、元の音にもどすには割と時間がかかってしまうもので、楽器がダメな音を覚えてしまっているのだと考えられます。

 

反対に、普段私が使っている楽器でもプロの上手な人に吹いてもらうとたちまち良い音になってしまうというのは目の前で見てきました。その直後、楽器を返してもらって吹いて見るとそのプロの人の音が出てくるのでびっくりするのですが、吹き続けているとだんだん元の私の音に戻ってしまいます。

 

要するにフルートは吹いた人の音を記憶するということ、さらに次の人が吹くとだんだん次の人の音に変わっていくということのようです。有名プロとか憧れの演奏家に吹いてもらって、その音が永遠に続けば・・・とつい思ってしまいますが、現実にはそうはいかないようです。

ある大学の先生の研究に 吹き方=楽器の振動で原子配列が変わってしまうのだという研究があるそうで、上のような私の経験もこの研究の延長線上にあるのだろうと思われます。

 

金属が熱や温度によって分子・原子配列が変わることはすでに知られていますが、振動で変わるというのは新しい視点です。見た目が変わらないし、金属のような硬い物質が振動や温度によってその性質は流動的だということはすぐには信じがたいことですが、演奏前に楽器を温めるのはチューニングとは別に、実際私自身も実感があります。

 

以上は短期的な振動に関することでしたが、さらに楽器の振動ということを長期的にみると時間をかけて「育てる」という観点も必要なことのようです。つまり「良い振動の積み重ね」ということのようです。

 

私が自分の楽器(頭部管18K+胴・足部管14K)を作ってもらったとき、制作者から「この楽器が十分鳴り始めるには10年かかるでしょう」などといわれたものでした。時々調整してもらいに行った時など、調整が終わった楽器を試奏してみると「◯◯さんそれは息の音だよ」とよくダメだしされたものでした。


息を使って音を出すのは当然なのですが、制作者さんの言いたいことは「フルートは息を使って楽器を鳴らすことが重要だ」ということのようです。

 

この「鳴る・鳴らす」ということで思い出すのは「エイジング」ということでした。他の楽器、たとえばバイオリン、ギター、ピアノだって響板などで弦の音を十分に鳴らしているということです。ただ、これらの楽器も良く鳴るにはじっくり時間をかけてやさしく響かせるところから始めなければならないということです。

 

音響装置、特にステレオのスピーカーなどは半年から数年はかかるということが言われています。ここでガンガン鳴らしてしまうとどんな高級スピーカーでも性能が十分に発揮できなくなってしまうのだとか。音量を控えて短時間鳴らすところから始めなければならないのだそうです。話はすこし逸れますが、スピーカとアンプをつなぐコードもエイジングが必要だとのことで、高額な新製品をすぐに取り付けても硬い音しか出してくれません。

 

もうひとつ思い出すのは、楽器のオーバーホールでパッド交換した後のことです。パッドが新しくなるとしばらくは鳴りがしっくりこないのですが、ストロビンガーパッドのような特殊素材が入ったものは1~2ヶ月はなかなか鳴ってくれませんでした。

 

特に高音はスカスカで、楽器が別物のようになってびっくりしたものです。半ばあきらめの心境で吹き込みだけは続けていましたが、ある日突然鳴り始めてほっとしたことを覚えています。

 

きっかけは銀製の頭部管をはずして普段使っている18Kの頭部管を付けてみたことでした。長年使っていてよく振動してくれているからパッドのエイジングに有効なことがわかりました。18Kでパッドが鳴りだしたので銀製にもどしたところ徐々に鳴り初めたというわけです。

 

もっとも、銀製頭部管に戻してすぐにすべてOKというわけではなくて、多少鳴りにくいところも残っています。やはり銀製でのていねいな吹き込みと鳴らしが必要になります。やはり楽器の鳴らしとは“育てる”意識が必要なのでしょう。

 

私の楽器(18K+14K)を作ってくれた方は「初めから鳴る楽器はそれ以上は良くなることはなくて時間と共に鳴りが衰えていく。良い楽器は吹き手が良い息を入れて時間をかけながら育てていくものだ」と言っておられたことを思い出します。

 

かつてサントリーホールが落成してまもなくコンサートプログラムが続いていて私も聴きにいったのですが、前評判が格別だった割にはホールの響きが思ったほどではなかったのを覚えています。音楽評論家が言うには音楽ホールも楽器と同じく、時間をかけて良い響きを与えて育てていくものなのだそうです。5年から10年はかかるとのこと。音楽ホールも楽器と同じということがまた新鮮な驚きでした。実際、いまでは素晴らしい演奏家の音をより一層素晴らしく聴かせてくれています。

 

新品のフルートが十分鳴り出すまで時間がかかるというのは、毎日の練習を長年積み重ねて楽器の音を育てていくものだという意味でもあるのでしょう。音出しの段階から楽器に良い息を吹き込みたいと思っている毎日です。

 

 

生後5ヶ月ころのわがやのねこです。ようやくおちついてきてピアノのうしろにかくれることがなくなりました。
                                                                              (その2に続きます)