※ 中間部(ニ短調)のみの演奏です

 

作曲者はクリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714~1787年現在のドイツ生まれ)で、ヘンデルとも親交があったのだそうです。これはそのグルックのオペラの代表作『オルフェオとエウリディーチェ 』(1762年)の中で演奏されるメロディーです。

このオペラはギリシャ神話に基づく話で構成されています。毒蛇にかまれて死んだ妻を取り戻そうとしてオルフェオは黄泉の国へと訪ねていきます。美しい景色の中で精霊たちが踊っていて、その精霊たちの中にエウリディーチェがいます。

この場面で演奏されるのがこの曲です(ウィーン版ではヘ調の明るい牧歌的部分だけですが、のちのパリ版では中間部にニ短調のメロディーが挟み込まれ、悲劇的な印象のメロディーも付け加えられました)。オルフェオはそこから妻を連れ出します。

格調高くかつ美しさと哀しみとが同時に極まったようなこの旋律はその後オペラから独立して演奏されるようになりました。後にクライスラーは「メロディー」というタイトルでバイオリン用に編曲しました。250年も前に作曲された楽曲というのも忘れてしまうくらい現代人の心にも訴えかけてくるように思われます。

物語は続いて、この後「黄泉の国から抜け出すまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という愛の神との約束があったにもかかわらず、オルフェウスは出口まであと少しのところで妻が無事かどうか不安に駆られてとうとう振り向いてしまうのでした。

原作のギリシア神話ではここで妻が息絶えてバッドエンディングとなってしまうのですが、グルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』では、妻の後を追って自害しようとするオルフェウスに、愛の神は「お前の愛の誠は十分示された」としてエウリディーチェをよみがえらせ、ハッピーエンドとなります。


この動画の演奏者ランパルが2000年5月20日に亡くなった時、NHK朝7時のテレビニュースで放映されているのを偶然目にしました。トップニュースの扱いらしく番組冒頭から数分間、会葬の様子が放映されていました。

 

その中で会場にランパルがかつて演奏した「精霊の踊り」の録音が流されているのが分かりました。やがてアナウンサーの説明が流れてきて、ランパルの死を悼んで世界中から集まって来たトップ・フルーティストたちによって話し合いが行われ、ランパルの数多くの名演奏の中の名演奏だと意見が一致してこの演奏が選ばれたのだと伝えていました。

20世紀を代表するフルートの巨匠ランパルの死を悼む人達の「できることならば黄泉の世界から蘇って再び演奏してほしい」という願いも、もしかしたらこめられていたのかな、などと想像したりもしています。

 

 

私がフルートを趣味で吹くようになったきっかけはランパルのフルートの音でした。また、私の楽器(18K+14K)を作ってくれた方もランパルと親交のあった方で、たまたまランパルが日本に来ていたので出来上がったばかりの私の楽器を試奏してもらったのだと言っておられました。

 

残念ながら私はその場に居合わせなかったので、私の楽器をランパルはどんな音で吹いてくれたのか聴くことが出来ませんでしたが、出来上がったばかりの私の楽器を「良い楽器だ」と言ってくれたのだそうで、それを励みに練習に勤しんできました。

 

ランパルが亡くなって23年になりますが、生前コンサートに行った時の音が今でも耳に残っています。私は2千人のホールの2階後方に座っていましたがピアニッシモの美音が耳元でふるえて聞こえていたのが忘れられず、思い出すたびに新たな感動が押し寄せてきて練習のモチベーションを上げてもらっています。

 

数々の名演奏・名録音を残してくれたことに感謝しつつ、ランパルの「良い楽器」の言葉通りに良い音が出せるよう練習を続けていこうと思っている毎日です。