家には、ごく普通の計算機があった。

特別な機能なんて何もない。どこの家庭にも一台くらいはありそうな、ありふれた計算機だ。

電卓 ハンディタイプ ケース付 メタルカバー 12桁 ビジネス ECH220IT ナカバヤシ Nakabayashi ◆◆

 

朝になると、それを手元に置いて、決まって「1+1=2」から始めた。

2+2=4。

4+4=8。

8+8=16。

16+16=32。

32+32=64。

64+64=128。

「あ、100を超えた」

それだけで、世界が少し広くなった気がした。

128+128=256。

256+256=512。

数字はどこまでも増えていく。その先に何があるのか知りたくて、ただ続けていた。

幼稚園では、みんながお絵描きをしていた。

赤い花や青い空や、丸い顔の家族を描いている。

私は自由帳いっぱいに、数字を書いていた。

計算式を、ひたすら並べる。

先生はそのページを見て、いつも少し感心したような、少し困ったような顔をした。

それでも一本一本、赤鉛筆で丸をつけてくれた。

あの丸は、正解につけられたものだったのか、それとも「この子はこれでいいんだ」と受け止めてくれた印だったのか。

今となってはわからない。

ただ、その自由帳だけは、誰の絵とも少し違う景色を映していたような気がする。