俺たちに明日は来るのか血の色の夕映えのなか交すサヨナラ
ひとひらの雲なき朝や産土の祭囃子が聞えて来さう
蟋蟀が鳴き始めたよ 拗ねるのはおしまひにしてとなりにおいで
いざ九月野に遊ばむか あかねさす濃き紫のこの靴選ぶ
例ふれば男盛りの四十代 初秋の風にそよぎゐる楡
たらちねに久しく会はず夢にてもとんと会はざりこの三月ほど
あきあかね左の肩に止らせて故郷荒古の小路巡れる
曼珠沙華こよなく赤し その赤は初めて触れし汝れが唇
地獄花きつね花また死人花 ごんの出さうなこのあかき畦
上前津駅より乗れる若き尼ズック履きをり いろはにほへと
かき氷喰らふことなくこの夏も逝つてしまふか なあ法師蝉
濁りたる脳細胞を醒まさせる午前十時のエスプレッソよ
夕あかね見つつ唇重ねたね、りんごのにほひしてたよ のんちやん
こんなにも空がピンクにならうとは 野間灯台の夏逝かむとす
眠りへといざなふやうに二時告ぐる柱時計の恋ほしかる秋
すずかけの木より蜩聞えつつ入りゆかむとすしろき眠りへ
あの家もまたこの家も布団干すああにつぽんの秋の休日
木犀が雨に香れば かなしくてかなしくてとてもやりきれない♪
サファイアのやうなひかりの降り注ぐ黄金堤や蟋蟀が鳴く
赤とんぼ口遊みつつ目頭がほのかにぬくし 酔うて候
冷暖房完備の施設に暮しつつあの「しもやけ」の痒み懐かし
見つめ合ふただそれだけのふたりなり木犀薫る午後のひととき
あすといふ曖昧模糊を信じたし夕焼けこやけ口遊みつつ
七年前の短歌作品群です。御批評の程、宜しく御願い申し上げます。