反動より恐ろしいのは“財布への反動” 〜同僚Tの観察記〜

うちの職場には、射撃場に通い詰めている同僚がいる。
名前は…まぁ仮に「T」としておこう。
いや、仮にじゃない。私の話だと信じて聞くな、これはあくまで目撃者の記録だ。


1. あの夏、破産ロードが開通した

Tが最初の銃を手に入れたのは、あの暑い夏の日。
手にしたのはコルトパイソン。
金属の輝きに目を細めるTの顔は、まるで子犬が初めて骨ガムを与えられた時みたいに無垢だった。
「これ一本あれば十分だな」
その言葉を聞いた瞬間、私と周りの同僚は心の中でこう思った。

——あ、コイツ終わった。

射撃オタクにとって「一本で十分」は「まだ始まってすらない」の同義だ。
あれは沼への第一歩である。


2. 弾薬消費、加速の悲劇

Tは平日、業務で弾薬を使う仕事をしている。
それなのに休日も射撃場に行く。しかも業務より本気で撃つ。
「業務用は業務用、俺のは俺のだ」と謎の線引きをしていた。

最初は週末に100発程度だった。
しかしTの発射ペースは、まるで加速装置を付けたみたいに上がっていった。
200発、300発…そして最終的には1時間で500発を消費。
射撃場のスタッフが「Tさん、今日は何丁持ってきたんですか?」と半笑いで聞くほどだ。

財布的には、これはまさにフルオートで撃たれているようなものだ。
給料日はあるのに、残高は常にマガジン空っぽ。
経済的なスライドは常時後退状態だった。


3. カスタムという悪魔の囁き

ある日Tが言った。
「グリップを木製に変えてみたんだ」
その数日後にはトリガーを軽量化、さらに光学サイトを装備。
翌週にはスライド加工とコンペンセイターまで追加。
気づけばカスタム代だけで新品の銃が買える金額になっていた。

しかもTはこう言うのだ。
「これで完成だな」
だがその言葉を私は何度も聞いている。完成宣言の翌週には必ず新しいパーツが届くのだ。
カスタムとは底なし沼。Tはもう首まで沈んでいた。


4. YouTube=財布破壊兵器

Tが最も警戒すべきはYouTubeだった。
「寝る前にちょっと見るだけ」と言って、アメリカの銃レビュー動画を再生。
そして気がつけば午前3時、購入ページを開いている。
その様子は、もはや催眠術にかかった人と変わらない。

レビュー動画の最後の「This is amazing!」がTには呪文のように聞こえるらしい。
再生終了と同時に、クレジットカードが抜かれる音がするのだ。


5. 財布のリコイルは持続型

Tはこう言ったことがある。
「銃の反動は一瞬だけど、財布の反動は長い」
確かに、反動は肩で受けられるが、カード明細は心臓に直撃する。
しかも月一連射。分割払いという“持続射撃モード”も容赦なく続く。

カード明細を見たときのTの顔は、至近距離で12ゲージを撃たれたような衝撃がある。
私はあの表情を二度と忘れない。


6. 家族という防衛線

Tには家族がいる。
ある日、奥さんが部屋に入ってきて言った。
「最近また銃増えてない?」
Tは即答した。
「いや、これは前からあったやつだよ」
しかし棚を開けると、そこには新品のグロックが鎮座していた。
私は横でそれを見ていて、心の中でこう思った。

——あ、今ので致命傷だ。


7. そして今日も財布に着弾

Tの部屋は銃、弾薬箱、マガジン、ホルスターで埋め尽くされている。
撃たずに飾ってあるモデルも多い。
私が「これ全部売ったら新車買えるんじゃ?」と言うと、Tはこう返した。

「新車は走るだけだろ。銃は撃てるんだぞ?」

この時点で、Tの理性ゲージはゼロだった。


結論。反動より恐ろしいのは財布への反動。
物理的な反動は一瞬だが、財布の反動は給料日まで続く。
そして給料日が来ても、新しい銃を予約している限り終わらない。

今日もTはカタログを眺めながらこう呟いている。
「次はショットガンかな…いや、ライフルも…」
また一発、財布に命中した音がした。