親父、ブルース・リーに目覚める
親父という生き物は、常に“何か”に影響を受ける体質だった。
健康法、テレビ通販、町内会の噂――全部、翌日には自分流にアレンジして暴走する。
そしてある日。
親父はブルース・リーの映画を観てしまったのだ。
◆衝撃の出会い
テレビで偶然流れていた『燃えよドラゴン』。
ブルース・リーが上半身裸で「アチョー!」と叫んだ瞬間、親父の魂に火がついた。
「ワシや!これや!ワシもこれになるんや!」
え、なるって何?
ブルース・リーになるって、どういう意味?
母は一言。
「やめときなさい」
だが親父は聞かない。
翌日にはタンクトップを着て、庭で空手のポーズを取り始めた。
◆ヌンチャク事件
ブルース・リーといえば、やっぱりヌンチャクだ。
親父は当然のように自作。
材料は、押し入れに眠っていたホウキの柄を切った棒と、玄関に転がってた犬用の鎖。
結果――振り回した瞬間、後頭部に直撃。
「アチョォォォォッ!」
まさかのブルース・リーの叫び声で痛みをごまかす。
だがその後、こめかみにタンコブができ、母に怒鳴られて没収された。
◆ブルース・リー語録
映画のセリフを完全に自分のものにしていた親父。
「Don’t think. Feel.(考えるな、感じろ)」
と、風呂上がりに全裸でポーズ。
母「考えなさい!せめてパンツぐらいは!」
…我が家の日常は常に修羅場だった。
◆親父、トレーニングを始める
映画の影響で、親父は腕立て伏せを始めた。
「ワシもドラゴンになるんや!」と言いながら挑戦するも――
1回目:「グッ」
2回目:「バキッ」
肩から変な音が鳴った。
「お前な……肩が壊れた音を“ドラゴンの咆哮”みたいに言うな!」
僕が突っ込むと、親父は苦しそうに笑った。
「ブルース・リーもな、痛みと共に強くなったんや」
いや、あの人は病院送りになってない。
◆伝説のラストアチョー
ある夜、親父は突然リビングで叫んだ。
「ワシはまだ若い!アチョォォォー!」
そして無謀にも、ガラステーブルに飛び蹴り。
「ドガシャーン!!」
テーブルは粉々。
母は絶叫。
親父はというと――足を押さえて転げ回っていた。
「イタタタタ……これも修行や……」
いや、それただの大ケガや。
◆そして今
そんな親父も、50で逝ってしまった。
最後までブルース・リーにはなれなかった。
いや、正確に言うと「なろうとして爆散した男」だった。
でも、今でも僕の脳裏には焼き付いている。
庭でタンクトップ姿でヌンチャクを振り回し、後頭部を殴って「アチョー!」と叫んだ親父の姿。
あれこそ、親父なりの“燃えよドラゴン”だったのだと思う。
◆まとめ
親父はブルース・リーの映画を観ただけで、自分も「ドラゴン」になれると信じた。
結果、ヌンチャクで自爆し、テーブルを粉砕し、家族を恐怖と笑いで包んだ。
でも、不思議と後悔はない。
なぜなら――
僕が今でも敬愛する「一番のお笑いスター」は、間違いなくあの親父だからだ。