十一 急襲
昨夜はうなされていたのかも知れなかった。あんな話をしていたせいか、最上が床につくと、失われた記憶の断片が現れ、最上にかつての魔道知識を蘇らせる結果となったのである。やはり、急速に覚醒へと向かっているのだろうか。
朝シャワーを浴びると、最上はドライヤーを手に取ろうとしてふと思いついた。分子運動を活発化させる魔道法印を頭に思い浮かべる。爆発や火事などになるまいかと不安に思いながらも、次にこの世にある大自然の大地を吹き抜ける風を思い浮かべた時、夢の中で見たと思われる風の法印が思い描かれた。強くイメージすると、法印は手元に浮かび上がり、その手に突如、暖かい力の宿るのが分かった。熱と風の論理集合体。いわば二つのアプリケーションを駆使して、最上は熱と風を起こし、髪を乾かす事に成功した。便利ではある、と最上は笑った。
もう、やる気だった。元々魔神だったと言うのなら魔神なのだろう。魔神として生きてやる。それまでだ。
満員電車に揺られながら、最上は正面に立つ若い女性が読む本の背表紙を見ていた。女性はOL風の二十代前半。余程気に入ったと見えるその本に顔を近づけて、眼をしきりに動かしていた。
最近では有能な会社員になる為の本、財テクの本、運を集めて幸せになる本、モテる為の本等が店内の陳列棚に所狭しと並んでいるものだったが、今、最上の目前で女性の手に開かれている本は違っていた。
“シュジュ…だったか……?”
確か最近よく聞かれる名前だ。『目覚めよ! 日本人』と題した本の背表紙。その下に『朱珠』と作者名があった。
目覚めよ…。最上は魔神として、自分がいったい何をすべきなのか、いまいち整理できていなかった。