十  記憶の断片

 駅まで来た四人は、それぞれの帰路に着く。…はずだった。

「最上君ちに家庭訪問に行きます」

 少し図々しいかも知れないというような不安があるのか、駄目かな? と言いたげな表情の水鏡が、しかし言葉の上では意を決したようにキッパリと言うので、最上は思わず笑って承知した。

「遊びに来るか? 俺、実家じゃないから、気遣わなくていいぞ」

 親が嫌いな最上は、紛いなりにも社長である父に資金を出してもらい、私生活には自分の為にも責任を持つという約束で、一人で暮らしている。

「はい、はーい! 行く、行きまーす」

「じゃ、あたしも行くよ」

 藤堂と七海までも着いて来ると言う。今回は、昨日のように気を利かせてくれるつもりはないようだ。

 そうだろうな。と最上は思う。

 水鏡が最上の部屋へ来る。本当なら、誰にも邪魔されない、二人だけの時間のはずだった。よりお互いを理解しあう為の時間…。

 しかし、今回はそうではなかった。水鏡は尋ねるだろう。もしかすると自分が少し前に聞かされた話を、全て話さねばならないかも知れなかった。

“終わるかも知れない…”最上は恐れを、持ち前の強さでねじ伏せた。

“…その方が良いのかも知れない”

 単純に金や物を入手し、それを不足と感じないように使えれば幸せだと感じる。女性とはそういったものだ。そう思い直した最上は、愚かな母の事を思い出していた。

あれは愚かなのではないのかも知れない。たまたま手に入れたその持ち前の美貌と『モデル』という美の代名詞たる肩書きに甘んじて油断し、建前を疎(おろそ)かにしてしまった、普通の女性の姿なのかも知れない。

独立すれば社長。肩書きに目が眩み、誤って社長の肩書きを手にしてしまったが為、不足した能力を補えず、経営に苦しむ愚かな父。父は肩書きを望み、それを望む母と結婚したのである。そうして出来た家庭を最上はずっと見て来た。