九  畠山由梨

 あの後、御柳達は部活か。最上は一人で教室へ向かった。中途半端な時間だった。

自分はまだ力を使いこなせない。今、バリティエ達に正体がバレるのは危険だ。

 最上が教室前の廊下に出た時、教室の入口に僅かな人だかりがあった。それは最上を見つけるなり、近くまでやって来た。

「何だって?」

 最上は、怪訝そうな顔をしている水鏡の顔を見た。

「大丈夫だ。葉月」

先日のデパート屋上で、夕日に照らされた水鏡の横顔が脳裏をよぎる。可哀想な娘だ。知る由もないだろう。よもや自分の彼が魔神であるなどとは…。

水鏡は並んで歩きながら照れたような、しかしどこか悲しげに笑って見せた。

「ただ、何があったのか聞こうと思っただけなんだけどな…『大丈夫』って言うんだね…。どうして話してくれないかな。何かあったんでしょう?」

 女とは細かい所を気にする。そこが男にとって堪らなくいじらしい事もあるのだが、最上は心中困った。

「厳城大附属の生徒の話だよ。行方不明の。何か知らないかって事。ほら、鞘邑の奴」

「でも、何で最上君が呼ばれるの?」

「さあな、鞘邑が言ったんじゃないか?」

「ふーん。フフ…。やっぱ何か隠してるねぇ。いいよ。言わなくって。言わなくても済む事なんだよね? 私がでしゃばんなくても問題無い事…」

 教室の傍には、何故か部活に行ってない霧小路と、藤堂が心配そうにこちらを見ていた。最上は笑顔を贈った。

「必要になったら話して?」哀願する水鏡の眼に、最上は苦手な笑顔を精一杯作って答えた。

“必要なんだよ…本当は…だが巻き込むわけにはいかない…お前だけは”

 勘の鋭い娘だ。眼を合わせれば見破られるだろう。そんな気がしてならなかった最上は、眼を逸らした。