「昨日の、魔法…みたいの…」最上が押し出すように言う。

「そう、あれは魔法。貴方の持ち前の魔力を行使したから、あの男は一瞬のうちに灰になった」

まさか肯定されるとは思わなかった。桜木はあの恐ろしい事実を、ひょうひょうと口にした。膝の上に置いた自分の拳が、既に汗を握っているのが分かる。

「俺達仲間か。…魔法使いか何かか?」最上は恐る恐る聞いた。

 だが、彼女達は答えなかった。互いに視線を交し合うと、困惑した表情で、どうやら答えて良いのか迷っているようだった。

 やがて、七海が足を組み代えてから、重い口を開いた。

「これから語られる話は、例え日常とどれ程かけ離れていようとも、真実以外の何者でもない。それを疑う、或いは否定する質問は受けられない。いいね?」

 一種の覚悟を促していた。

「…分かった。聞こう」

最上は椅子に座り直すと、七海は語り出した。

「魔神って分かるか最上。テレビゲームや何かで馴染みあるだろう? 今から話すのは、その魔神の住む世界の物語だ。世に八十八ある魔界での出来事なんだよ」

“…魔神…だと…?”

 七海の言っている事は面白い。これが映画の筋書きであるならば、最上も快く聞いていられたのだろう。真実の第一弾がこれか…。何やら序章から躓(つまづ)きそうな話を聞きながら、最上は七海の話に耳を傾けた。

「八十八の魔界は各世界に一人、または複数世界に一人の魔神の王がいてね。魔王だよ。魔神、て言うのはね。力で全てを決める。まあ、人間の価値観に照らせば、えげつない野蛮な種族かな。でもね、誇り貴い種族でもあるんだよ」

 魔神の存在を認めろとでも言う気だろうか? いや、そういう話だ。最上は今にも煙の出そうな頭の中で、この会話を他のものと隔離して整理しようと考えた。そして、終わりまで聞いてから、今までの知識や経験を蓄えた頭の中に解き放ってみる。果たして大丈夫だろうか?