気。そう、気だ。何故か最上には先日から昨今、この『気』といえば良いのか、何やら凄まじい威圧感を感じる事が出来るようになっていた。
教科書を片手に閉じた桜木は、天を仰ぎ見るように一言
「時間切れだ…」と呟いた。その声色、言葉遣い、今までの桜木とは印象の異なる、言ってみれば別人の声だった。御柳が自分を指差して「俺の事?」と辺りに聞いているのが目に入ったが、最上は桜木を見ていた。
と、静かに立ち上がった七海が教室の後方を、険しい表情で窓際に近づき、窓から距離を取って外を眺めていた。桜木も教室の前方から窓に近づき遠くを眺めている。
教室は地上四階にある。二人の眼下には、まるで公園か、大学キャンパスのような鳳凰高校自慢の美しい景色が広がっているはずだった。
「そう、さっきからいるんだよな。誰か待ってるのか?」
岩見が、遠くに見える校門の傍に、三人位の他校の生徒がいると言い出した。
「灰色のセーラー? ありゃあ厳城大附属じゃねーのか?」と誰かが言う。
“厳城大附属…”
最上の心に花見の景色が蘇る。そして昨日の駐車場だ。終業のチャイムはそこで鳴った。
「今日のホームルームは無し。七海さん、最上君、至急生徒指導室へ来なさい」
少し驚いた最上は思わず口を開いていた。
「俺が何をしたと?」
生徒指導室。文字通り問題でも起こさない限り用の無い所のはずだった。
「だから、言ったろう? サッカー部入っとけばこんな事には…」岩見が冗談めいた事を言う。そんな場合か!
「じゃあ何か? 入部断ったから呼ばれるって言うのか?」
最上はやれやれと溜息をついて見せてから笑って、桜木を振り向いた。
「いいから来なさい」
依然、険しい表情で、桜木はそう言って、教室を出て行った。