坂を降りたその先は左も前も壁である。右側に広大な駐車スペースが広がり、後方は本来であれば、次のフロアへの斜面があるはずだったが、地下四階は最下層だ。行き止まりであった。左腕の痛みを堪えながら、出来る限り周囲を把握しようと眼を凝らすと、四階への斜面入口付近の丁度真下辺りに、電源の入った懐中電灯が、伏せて置いてあるのが分かった。傍に誰かいる。近づくと学ラン姿の男のようだった。
「何か分かった?」
手に光を操る不気味な女は、どうやら掌から発光体を出現させているようだった。何という事だ。これでは魔法だ。
「間違いねえな。ハスナワーはここで殺られたんだろう」男は一九〇センチメートルはあろうかという大男で、これが高校生の身長だなどと思いたくも無かったが、確かに学ランを着ているようだった。
「ホンマに…あ、スマン」
突然耳元で声を出されて、最上は身を捩(よじ)った。関西弁の女は一言詫びてから、話を元に戻した。
「ホンマに殺られたんやろな?」
「これ見ろよ、バリティエ」
男が足元を照らすと、大量の炭が横たわっていた。
「それは灰か?」発光体の女は男に尋ねた。
「ああ、本体はそっちで焼かれたんだろう」男は別の場所を指している。よく見ると、炭は至る所に大小山となっている。
焼かれた? 何が? 最上は思わず立ち止まって考え込んだ。
「あんさんこっちや。ンなとこ立ち止まらんといてーな」関西弁の女は最上を隅に背中を預けるようにして立たせた。
男は最上の姿を下から照らしていく。顔にライトが当たると、余りの眩しさに手を翳して光を拒んだ。
「紺の上着にグレーのスラックス。そのブレザー…」男は呟いた。
「何か焼かれているのか?」
最上が質問すると、答えの代わりに女の操る例の発光体が高速で飛んで来た! それは最上の腹を直撃し、最上は暫くの間、呼吸困難の地獄に陥った。