やがて笛が鳴り、顧問が二、三年の補欠部員を副審に従えて審判となり、試合が始まった。一年のキックオフから始まり、直ぐにボールを奪われた。早速10番がボールを持つ。副部長の吉沢だろう。とたんに頭上から歓声が沸いたが、最上は冷静だった。

岩見から予め聞いてはいたが、やはり大した事は無い。仲間が個別撃破されるタイミングを計って最上はマークについた。得意そうにフェイントを入れたつもりだったのだろうが、最上は掛かった振りをして次の瞬間吉沢の予想を裏切った。

ルーズボールにはならなかった。最上は左から右へドリブルして逃げ、まだ、キーパーが飛び出せない位置へクロスボールを入れた。アーリークロスというやつだ。一年が最初のシュートに行ったが、直後、走り込んだ部長の倉永がカットした。ボールがコートから出る。

 ドンマイ、ナイスシュートと言った一年チームの激励に混じって、部長倉永がレギュラーチームに号令した。

「6番に仕事させるな! 一人で足りなければ二人つけ!」

 おう、と言う声。試合が再開するが倉永が前方へ大きくクリアする。吉沢にヘディングで挑んだ最上は、相手の前に肩を入れ、抑え込んでボールをヘディングでクリアした。

一年の攻撃は続かないが、レギュラーは最上を越えられない上、毀(こぼ)れ球は全て岩見達に拾われてシュート迄行かない。頼みの吉沢も、よもや最上の敵ではなかった。前半ロスタイムで一年にコーナーキックが回ってきた。蹴るのは一年の10番司令塔だ。最上の知らない人物だが、この三十分、パスワークの良いプレイヤーだと解釈した。

最上は仲間の一人に陽動の動きを指定してから、それによって作られる逆サイドオープンスペースを岩見に使うよう言って、自分は後方へ下がった。岩見が得点プレイに関わる為、失敗した際、自分が真っ先にボールについて、相手チームの攻撃展開を遅らせる役割を担うつもりでいた。

だが出番は無かった。オープンスペースに入ってきたボールを、岩見の長身がヘディングで打ち付け、この試合、誰も予想しなかった一年チームの一点先取で前半を終えた。

ミーティングで最上は、守りを固めると言い出した仲間を制して説明した。