水鏡達を残してグラウンドへ降りて行くと、見知った二人が腹を抱えながら大笑いしていた。御柳は1番、岩見は2番のビブスをつけ、どうやらウォームアップ中だったようだ。
最上がグラウンドに着くと、御柳が顧問と、部長、副部長、マネージャー三名に最上を紹介した後、6番のビブスを最上に渡して「ボランチ」と、一言告げた。
一年チームはミーティングを開始した。御柳と岩見が中心にサッカー経験者に細かい指示を与えている。そして未経験者には、とにかく次の味方にパスが通れば問題ないと説明して、最後に
「今日の助っ人は、中学時代、近隣にその名を知られた司令塔殺しだ」と紹介した。
「デスボランチか!」と誰かが言った。
最上はその反応を見るなり、さてはと察して
「知らないのか? この岩見はジョーカー。御柳は全国優勝芹ヶ丘中の正キーパーだぞ? この試合ディフェンスがサボっても失点は無い」と言ってやった。
「言えよ! お前ら!!」
口々に嬉しい文句が飛び交った。とたんに緊張がなくなり、士気が上がった事を確認してから
「ま、最後は言い過ぎた。個人の力で勝てるようなスポーツでは無かったな。こいつ等は強いんじゃない。上手いだけさ。スポーツは上手い奴が勝つんじゃない。強い奴が勝つ。サッカーでは強さはチームにあって個人に対して『あいつサッカーつええよ』等とは言わないだろう?」
誰もが強く頷く。最上は更に続けた。
「個人技はな、あくまで得点する為に用いるサッカー技術の一つに過ぎない。どんな鮮やかな技を披露しても、それだけでフィギュアスケートの様に点数になったりはしない。10.0は愚か、一点にもなりはしないんだ。点が欲しければ手段は一つ。あのゴールネットを揺らせばいい。いいかみんな! 俺達に『先輩方相手に、何点差で済んだなんて、良くやったじゃん』みたいな言い訳は無いぞ。皇帝御柳の守るゴールだ。無失点で完封勝利と行こう!」
「おう!!」