週の頭から悪い夢を見た割には、よく眠れたようだ。放課後になって最上はまだ夢の内容が気になっていた。

“私達だけでは凌げないと言ったな……”

 何の事だ? と最上は思う。何を凌いでいると言うのか。そして私達とは…?

ふと我に返って、傍に水鏡がいる事に気が付いた。彼女は最上の顔を覗き込んで

「帰ろっか?」と照れ臭そうに笑った。

「ああ…」

最上が答えると、それを少し離れた所で見ていた霧小路が

「へえ…」と少し驚いて見せてから、にっこり笑ってみせた。彼女は水鏡に近づくと、右手で肩にポンと手を置き、眼で彼女に何か伝えるように覗き込む。

 水鏡は照れたように、下を向きながら上目遣いで霧小路を見詰め返して、にんまりと笑った。

 霧小路はそのまま着替えに行く。

「葉月ちゃん帰ろー」藤堂が水鏡に近づこうとするも、気を利かせた七海が後ろから肩に手を掛けてにっこりと笑った。

「あんたはあたしと帰りなよ」

「鞘ちゃん帰るー? よし! 帰ろー!」

藤堂はいつも独特のノリで、見ていて飽きない。

「どいてどいてーハイハーイ」

「ごめんねー水鏡さぁーん」

 そこに御柳と岩見が二人して話に入ってきた。まるで喜劇を見ているようだ。何やら普段より更に調子の良い気がする。いや、御柳に限ってはこんなものかも知れない。そして最上の机上にナイロン袋に入ったスパイクシューズが置かれた。御柳が

「これ、俺の使い慣れたシューズ。おニュウ買ったから、これやるよ」と言い出した。

 最上達があっけに取られていると、岩見が

「はいこれ、レガース。昨日トレーニングウェア買ったらついてきたやつ。お前にやるよ」

と言ってレガースを机上に置いた。

「いやぁー間に合って良かったねー岩見君!新歓試合当日だよー」

 御柳が岩見に向き直ってそう言う。見ると御柳は眼をいつに無く細めていた。そして今度は岩見が最上の肩に手を置いて話し出した。

「あのメンバーで戦うのは無理だ。何としてもお前のミドルシュート。あれ。必要」

「あのね、今日の試合、ポジション普通に機能しないの目に見えてるから」御柳が言った。

 そして岩見と御柳が立て続けにこうだ。

「お前攻撃。俺、守り」

「俺キーパー。宜しくー」

二人は交互に言いたい事を言うと、最後には揃って手を振り、宜しく、とグラウンドへ向かった。

「さてさて、どうすれば良いでしょう。ジャジャーン」

 水鏡が両手を腰の後ろで繋ぐように、バッグを下げ、楽しそうにひらひら揺れていた。