五  水鏡葉月

日曜日の朝、携帯電話に着信があった。最上が出ると、声の主は水鏡だった。今から待ち合わせして遊びに行こうというのだ。桜祭りはもういいから映画でも見ようという事になった。

昼過ぎに、指定された場所に行くと、話に聞いていた噴水があった。最上は春物の淡い柄のワイシャツに黒のスラックスという格好で、噴水を背に水鏡を待った。

五分も待たなかっただろうか。ふと顔を上げると、美しい女が、遠くから真っ直ぐ歩いて来るのが見える。まるで自分に自信のあるやり手のOLといった所か。よく聞く話だが、すれ違う人が、全てそこに振り返っていた。

“ほう…”と思うのも束の間、それは“まさか!…”に変わった。

水鏡は現れた。

極めて白に近い桃色のジャケットを羽織り、純白のブラウスと黒のミニスカート。膝上までの黒いストッキングに黒いヒールサンダル。水鏡に良く似合っていた。

少し遅い昼食を取ってから、恋愛物の映画を見る。喫茶店で映画の話をして一息ついたら、今度は駅前のデパート内を眺めて歩く。そして夕暮れの街をデパートの屋上から見下ろしていた。展望鏡がいくつか設置されていたが、そんなもので遊ぶ人影も無く、今は二人だけだった。

美少女の髪が、時折風に乗って流れていた。手すりの傍に立ち、遠くの夕日を眺める水鏡の背中を眺めながら、最上は一日を振り返っていた。

世間一般にはこれが当たり前のデートかも知れない。今日一日、一本の電話に始まり、今まで無かった休日を過ごせたのは、偏(ひとえ)にこの美少女のお陰であった。水鏡は今、どんな事を考えているのだろう。最上は黙って待った。

「最上君…」

 水鏡は何やら物思いに耽ったような顔つきで夕日を眺めていた。

「ん?」

「…最上君ってさ…暗いね…」

 暗いんだね? というような言い方だった。ならば何故自分といる事を選んだのだろう。そう思った最上は水鏡の表情に目をやった。一息ついたような、しかしどこか寂しそうな笑顔が、儚げな空のグラデーションを眺めていた。

「…そう…だな……」

 少し考えてから最上は静かに肯定した。