「灰色の学ラン? つったら…厳城大附属か? そういえば今日沢山いたな」御柳が思い出したように呟く。
最上は鞘邑を振り払おうとしたが、その時彼女は身体毎完全に振り返り、今度は左腕を右手で掴む形で最上と向き合った。
「問題無いって。…済んだって言ったろう?」大人しく少し追い詰められたような、そんな声だった。鞘邑の眼もいつものそれに戻っていた。だが、腕をまるで放さない。是が非でも先へは行かせないつもりのようだ。
それならばと、最上は自由になった右手で襟を掴んで体当たり気味に壁に鞘邑を押し当てた。人の身体を叩き付ける鈍い衝撃が、彼の腕に伝わるようだった。
「何故先へ行かせない! 学ランの奴はどうなった!? 怪我人は!?」
気が付くと最上は鼻先をくっつけて怒鳴っていた。目前に野性的で美しい七海の顔がある。その視線は襟を掴んだ最上の手に落とされていた。
「お、おいどうした落ち着けよ、最上」
岩見達が止めようという時、鞘邑は周囲を左手で制する仕草をしてから、自分の襟をねじ上げる最上の上腕へ、手を手繰り寄せるように掛けながら、囁くような声で最上に言った。その吐息は最上の唇から顎にかけて届いていた。
「ん、…荒っぽいねえ…ったく、痛ぇったらありゃしないよ…。でもあたし、そーいうの嫌いじゃない」少し背を反らせ、最上の顎の下に元々ボタンのはめてない胸元を惜しげもなく露にして曝(さら)け出す。妖艶な笑みを浮かべて七海はとうとう最上の腕を放した。すると今度はその手を、艶(なまめ)かしく這わせるようにして、最上の腰に廻し、ゆっくりと、しかし強く引き絞るように引き寄せた。
間近に見詰め合う時間。そして囁き。
「知るべきものならば、いずれ必ず知る事になるから…」
勝ち誇ったような、そして優しく包み込むような眼で七海は静かに最上を解放した。
それから駐車場を出た七人は、吹雪く夜桜に迎えられ、甘美なひと時を満喫して、やがて帰って行った。