「やっぱあたし戻るわ」七海は立ち止まり、正面を見たままそう言ってから笑顔で振り向いた。「じゃあな最上。また月曜日」

「行っちゃうのー? 美味しーよー?」藤堂は呼び止める。

「じゃあね、みんな」七海は手を振ってから翻った。

「え? もう? 今来たばかりじゃん…」霧小路がそう言ったが、七海は振り返らなかった。

「鞘ちゃーん、美味しいよー…美味しいのに……」藤堂はしゅんと下を向いた。いや、たこ焼きを見ただけかも知れない。

七海は駅の方へ向かって行く。皆が先へ向かって歩き出すのを他所に、最上は七海を見送っていた。この遠ざかって行く感じ。間違いなく最上は七海の中に何かを感じていた。

遠くなる七海の背。嫌な予感がする。何と言うか、すべき事がありながら思い出せずにいるような、そんな気分に似ていた。やがて七海は、駅へ戻るはずが途中左へ逸れた。大して人の往来も感じない路地へ入って行ったのだ。

出入りが全く無かったわけではない。現に今も灰色の学ランを着た、大柄な他校の男子生徒が一人、そこへ入って行く。

「最上君…?」水鏡が声をかける。

「どうした? 行かないのか?」岩見が尋ねた。

「『鞘邑が帰るなら俺も帰る』とかか?」御柳が、恐らく冗談であろうが真顔で言う。

「アッハハハ…嘘ぉ!」茶化す霧小路も、冗談と分かってくれているようだが。

「絶対入部などしないからな」最上が横目で言うと岩見が御柳に向かって

「バ、バカ!」と押し殺した声で言った。

「冗談だ」最上は僅かに笑って見せてから「あの路地を入るとどこへ行くんだ?」と、七海の消えた路地を指して見せた。左右に岩見と御柳が並び、右から御柳が

「どれ?」と最上に肩を寄せた後、「何だ? 裏通りか?」と聞き返した。

「あの路地がどうかしたのか?」岩見が左で、その路地を見やって尋ねる。