三 放課後
土曜最後の授業は担任の英会話だった。鳳凰高校での英語は文法、読解、会話の三種類で、特に会話の授業は重視されていた。会話慣れした方が文法も読解も身に付き易いと考えられている為だった。
やがてホームルームが終わって放課後となる。
今日と明日は駅前の商店街が桜祭りで賑わっており、学校と反対側の駅前に続く桜通りが特別な賑わいを見せているはずである。各クラスともガランとして人の気配が無い。岩見、御柳は部活だろうし、一人でぶらつくのも嫌いではなかった最上は、手洗いから教室へ戻る途中、静まり返った廊下で、ふと花見でもと考えていた。
「…まだなのか?」
隣のクラスの前に差し掛かった時、その声は耳に届いた。
「そんな感じだね」
「分かった。今夜あたり、私が仕掛けてみよう」
花見に行かない人もいるようだ。まあ、自分もここにいるのだから、似たような人達かも知れない。一年九組の教室に近づくにつれて、その会話は次第に大きくなっていった。
「強引に接触する気か? 勘気被るなよ?」
「フフフ…まだなのだろう? 勘気も何もないではないか。…心配はいらぬ。私は優しいのだよ。少し手を貸して差し上げるだけの事」
「ま、いいけどね。あたしは」
二人の女、間違いない。一人は七海だ。だが今一人はいったい誰だ?
「ところでさぁ。そっちはどうなの?」
「まだ、何とも言えない。特別な兆候は無いようだ。…やはり我々が一番乗りだと思いたいが。少なくとも潜伏してはいるだろうから」
なにやら気になる内容だったが、最上は躊躇わず教室へ入っていった。
室内は何人かの荷物が机上に置いてある。この祭りの最中に、不運にして部活動に赴く事になった者が岩見達の他にもいたようだ。女子バスケットボール部も、県大会の優勝候補だと聞いている。霧小路の荷物もそこにあった。最上のようにいずれ戻って来る者も勿論いるだろう。
教室には二人しかいなかった。声の主も自然と特定できる。
「オカルト話でもしてたのか?」
入ってきた最上を注視する二人のうち一人に軽く声をかけた。