駅前の繁華街を抜けると綺麗な住宅地に出た。いつもそこを通り、広い公園の先、遮る様に流れる清流を渡り、森を抜け、小高い丘の上に出ると、今度は閑静な住宅地がある。私立鳳凰高校もそこにあった。

「オカルトだっけ?」最上は臆せず尋ねた。

「ああ、あれね。多少そんな本も読んでるよ」七海も気にした様子は無かった。

「古武術って知ってっかな? あたしあれやってんだよねー」歩きながら空を眺めて、七海は少し語りだした。

「ほう、強いのか?」強そうだな? と言った口調で最上は尋ねた。案の定

「ああ、師範代だからな」と答えが返ってくる。にっこり笑って見せる所等、なかなか親しめる人間のようだ。

「あ、ほら、あたしってこんなだろ? だから怖がんない様にって事で、もう一つの趣味を言ったつもり…だったんだよね。ハハハハハ……」まるで少年のような照れ笑いで、頭を掻く七海。

「かっこいいな鞘邑」

「へへへ…やめなよ……」七海は更に笑った。

 そこへ突如、後ろから声が降ってきた。

「よっ! ご両人!」

「おはよう。御柳」

最上は振り返って挨拶を交わした。御柳が両手を二人の肩に置くと間に割って入る。何気なく後ろを見ると更に走ってくる人影があった。栗色の長髪。分かりきった事だ。

「オッス! 何だ、揃ってるな」岩見が走りよってきて挨拶するなり、カラカラと笑った。「どうだ? サッカー部は?」最上は尋ねた。「ヌルイヌルイ。俺もうダメかも」御柳が人目憚らずに言うのを

「声がでかい!」と押し殺した声で岩見が制してから、「お前も早く来い」と言った。

「みんな上手なのかい?」七海が口を挟む。

「ああ、七海さん。俺はともかくこいつ等は、特に御柳は中学三年最後に、全国優勝したチームの正ゴールキーパーなんだ」岩見が説明すると、七海は真剣な顔をして、

「へぇ…見かけによらず、凄いんだねー、あんたって」

「見かけによらないは君もだろう? えーと、オカルト少女」御柳は穏やかに笑っていた。

「アッハハハ…そうだったね」強がりでもなく、ただ軽快に笑ってみせる七海。人柄の大きさを感じさせた。凡そ武道を極める者は斯くあるべきであろう。