「男を見る女の目だろう。見ろお前あんなに眼ギラギラして…あーヤベエよ。俺ヤンキー苦手なんだよ」御柳は冗談のつもりだといいのだが…。
「最上…全国優勝するとこうなる」
「岩見、悪い事は言わん。決勝まで行ったら負けて来い」
ガラリと音がして皆が自席に戻っていく。担任の女教師が入ってきて教卓の所に立った。桜木紫艶(さくらぎしえん)。女教師は確かそう名乗った。ベージュのスーツに身を包み、ショートヘアに眼鏡をかけたその顔は、高学歴のキャリアウーマンを思わせる。透明な大小二つの三角錐を底面で合わせた様な、恐らくは水晶でできたイヤリングであろう。変わった物だがよく似合っていた。美人と言うべきそのルックスは一見上品だが、そんな彼女も高校教師だ。情熱的である代わりに、激怒すれば性格は保証されないだろう。
「私の紹介については撮影前にミッチリやりましたので、今度は皆さんの自己紹介をお願いします。では出席番号順に青山君から」見渡しながらそう告げる桜木。
出席番号順だと岩見は二番目になる。青山というのは余り人前で話せるタイプではないらしい。岩見の番はすぐに回ってきた。女子生徒の間で口々に「かっこいい」「素敵かも」といった賛辞が飛び交ったが、まあ、当然だろうと最上は思った。こういう万能型はモテるのだ。きっと勉強も得意に違いなかった。
「趣味はサッカーです。最上、御柳とサッカー部に入部を希望してます」
やれやれだ。顔を上げれば、あの期待に満ちた視線が今の無気力な最上を正面から捉えるに違いないと思いつつも顔を上げると、やはり岩見は嬉しそうにこちらを見ていたが、その眼は、最上の予想とは異なる意味を孕んでいた。
岩見の目配せに従って視線を移すと、その先に先程のスケ番の姿があった。やはりこちらを見ている。そう、散開して着席した後の最上を見ていたのである。
視線が合ったその刹那。ふと何かを感じて最上は自らの心の内を調べ始めた。にわかに沸き起こった感覚。
“この娘…違和感?…”
そんなはずは無い。最上は思い直した。
やがて、御柳の紹介が始まった。こいつは話が上手く、皆をよく笑わせてくれる。御柳が英語は苦手だと言うと、担任は「大丈夫よ。私が教えるから」と言って意味ありげに微笑んだ。
「趣味はサッカーです。岩見、最上とサッカー部に入ります」
御柳の次は武藤と言った。さあ、次だ。武藤が席に戻ると、最上は前へ出た。
「…趣味はサッカーでした。ただサッカー部には入りません」
「入れます」
「入れます」
間髪入れず、岩見と御柳が立て続けにそう言ったので教室内が爆笑の渦に巻かれた。