「そうだな、御柳は戦った事が無いか。最上は俺達風山中で最も嫌われていたディフェンシブだ」岩見が代わりに、気のせいか少し誇らしげに説明する。

「へえー、あのデスボランチくらいか?」

「そう。そのデスボランチだ」と岩見。

「何!」

 見る間に喜びの表情で顔を見合わせる岩見と御柳。

「こりゃあ、また全国だな」

「『皇帝御柳率いる鳳凰 全国制覇』」

「いーねーいーねー岩見君! 『皇帝の座所に死の双璧推参』」

「かぁーっこいいなぁー俺達! なあ最上…どうした?」

「悪いな。サッカーは好きだが、高校でサッカー部に入ろうとは思ってなかったんだ。済まない」

「…本気か? いや、駄目だ勿体無い! やるぞ最上」岩見は真剣な顔つきで机を揺らしながら言った。それに頷いた御柳も

「おお、じゃあ気が変われ。お前はやはりサッカーがしたくなった。とこれでどうだ!」

 どうだという事もない。だが

「考えておくよ。ありがとう」

 思わぬ出会いが、彼に僅かな希望を見せて輝いていた。

“こんな奴等となら、高校生活も悪くはないのかもな”そう思い始めた最上だった。

 不意に教室内に目をやる。出席番号順に窓際から席が並んでいる。廊下側三列は女子生徒の席だった。その二列目の後方の席に彼女はいた。

美人と言ってもいいのかも知れないが、ヒロインの様なタイプとも違う。決してクラスの中心になって騒ぐタイプではない。だが気が弱く大人しいタイプでもなかった。茶髪をストレートに背中まで伸ばして、腕を組み、背もたれに寄り掛かって、僅かに顎を引き、今時在り得ない様な長い丈のスカートの中で足を組み、瞳だけずらして、じっとこちらを見ている。口元に僅かな笑みを浮かべ、獣を思わせる様な鋭く猛々しい眼つきをしていた。

「誰だあの半世紀前のスケ番みたいな奴は?」ふと我に返って、最上は呟く様に言った。

「ん? 誰だ」席に付いている岩見は見渡してそれと目が合った様だ。

「何でスケ番なんて言葉知ってんだ? 最上」再びこちらを振り返った御柳が、どうでもいい事を聞く。

「誰を見ている?」岩見が立ち上がり、机上に手をついて、最上の耳元で囁く。