「俺もサッカーするんだよ。風山中(かざやまちゅう)で底張ってた…つっても知らないかな? ハハハ…」
冗談ではない。風山中のセンターバックと言えば、全国大会優勝を果たした地元芹ヶ丘中のストライカーが、地方記事にコメントしたと顧問を通じて知らされ、また各校サッカー部員の間でも有名な話のはずだ。確か『風山中の2番が手強かったです。うちではジョーカーと呼んで、以前より対策を練ってきたので…』云々とか。
「フン。まさか」そう返事をしてから最上は「相手がドリブル馬鹿でなければ、俺一人では何もできない」と話した。そして正面を向いたまま、妙に気の合いそうなこの男子生徒岩見に「そんな事よりどうなんだ? やはり芹ヶ丘は強いのか?」と尋ねた。
「ああ、強いな。特にあのキーパー、『皇帝』御柳翔(みやなぎしょう)は最強のチームメイトを従えた最強のゴールキーパー…」
「そこの君、ちゃんとカメラ見てくれる? 貴方のせいで撮影終わらないでしょう!」
突然飛んできた女性の声は、この一年九組の担任であろう。先程教室で自己紹介があったはずだ。彼女は自分の氏名を黒板に大書して力説していたが、最上はその名を覚えてはいなかった。
二人は背筋を改めた。が、声の飛んだ先は最上の立っている少し右にあったようだ。その肩まで伸びた襟足。少しとっぽい印象を受けるその黒髪の男子生徒は、岩見を見上げて意外そうな顔をして呟いた。
「じ、ジョーカー…」
やがて撮影が終わって教室へ戻る。教室には、担任の氏名が大書されたままになっていた。各自が廊下や室内で、同一出身中学の知人と会話しながら、どんな奴がどのクラスにいる等といった話で持ちきりだ。先程の女子生徒三人組も、室内で固まって談笑中だ。特に知り合いのいない者は、自席で間の悪い時間を過ごしている。本来なら最上もそのはずだった。
岩見と最上はその襟足と三人、岩見の席を囲んで話しだした。岩見の席は窓際の前から二番目にあった。
「最上、御柳だ」
岩見が言った。御柳は身長一七五の引き締まった体つきで、第一印象とは少々異なり、岩見に輪をかけたくらい陽気でとぼけた性格のようだ。
「君もサッカーするのか?」御柳は最上に振り向き尋ねた。