凡そ若者には相応しくない憤りを感じて最上はそこにいた。

「フン、何が…」

 そんな言葉が思わず口を突いて出かける。迂闊だったかと思った最上は、顔色も変えず残りの言葉を胸の奥に呑み込んだ。

「何すねてんだ? 第一志望じゃなかったのか?」

 傍で最上を覗き込む様に見ていた同じクラスの男子生徒が話し掛けてきた。岩見(いわみ)健之(たけゆき)。身長一八〇。栗色の癖毛を肩の下まで伸ばした姿はロックバンドのギタリストを連想させる。鳳凰高校の校風は自由であるから、体育の授業の時、輪ゴムで留める等すれば許されてしまうのだろう。顔は俗にいうハンサムだ。美形や端正とかいった中性的な美男子でもなければ、線の細い感じでもない。大きな自信を持ちながら、傲慢でなく穏やかで、友達甲斐があり、好感が持てるといった、大らかで誠実な性格を感じさせた。

「いや、第一志望だ」彼を視界の端に捉えて最上は答えた。

 昇降口から撮影場所までぞろぞろと並んでいる新入生の列を、後ろから眺めながら、こんな写真を、後で眺める事など自分には想像がつかないと最上は思った。最上のクラスに撮影の順番が回るまでは、まだ少しあるようだった。

「そうか。…君は見た事があるぞ。高凪中のデスボランチだろう?」岩見は嬉しそうに話し出した。サッカーでは、ディフェンシブハーフのポジションをボランチと呼ぶ。相手チームの司令塔の機能を低下させる為、守備にいち早く反応し、しつこく相手チームの攻撃を妨害する。地味ではあるが、主砲、司令塔、底(バックライン最後尾)と並び、極めて重要な役割の一つである。最上は中学時代、この役割を担うプレイヤーとして、各校のチームと戦ってきたが、一度最上にマークされると、その司令塔は機能停止してしまう事から、誰が言い出したか知らないが死神=デスの意味でデスボランチと呼ばれてきた。

やがて一年八組の撮影が終わり、最後に最上達のクラスの撮影となった。最上の後ろの列に並んだ岩見は、まだ話し足りないらしく、この期に及んで尚、左前にいる最上に向かって話を続けた。