一  最上隆之

 最上(もがみ)隆之(たかゆき)は失望していた。もうじき始まる入学記念撮影もこれから始まる高校生活も、大学進学やいずれ踏み出す大人の世界ですらも、彼にとって魅力的な世界とは言えなかった。

 最上は一見凛々しくもある。身長一七〇で中肉中背。中学ではサッカー部に所属し、両足はガッチリとしていた。だが肩や胸はまだしも、あばら付近に肉が無いのは、今年十六歳になる男子としてあまり逞しいとは言えなかった。見た目はキリッとした顔立ちではあったが、眼光が鋭く、若干神経質そうに横たえた眉の下にあるそれは獲物を狙う猛禽類というよりむしろ、何かを強く、そして静かに憎悪し続ける様な、少し陰に篭った輝きを放っていた。

『社長』の肩書きで呼ばれたい一心で独立して会社を興した、貧しい三流システム開発会社の社長を父に、またその肩書きに引っかかった愚かな元三流モデルの浮気妻を母に持ち、反社会的な少年として成長を遂げた最上は、中学時代も学業がそこそこでき、その上、好きな部活動への情熱にも助けられて、辛うじて非行に走らずに済んでいたようなものだった。

「やー私達もう高校生だよ?」

「ホント、高校生になっちゃったんだねー私達」

「何か実感無いけど…」

 よもや女子高生となってしまった女子中学生の三人組が瞳を輝かせて、昇降口の片隅で談笑している。教室にあった気配だと思う。どうやら同じクラスのようだ。

『私立鳳凰高等学校』のプレートが埋め込まれた石壁。正門からまっすぐ伸びた道に、まるで公園か或いは小洒落た大学キャンパスの様な美しい緑と花が春を大書していた。校舎の傍まで行った所に、桜の樹が数本植えられており、記念撮影はそこで行われているのだった。

撮影の済んだクラスの生徒達が昇降口から各教室へと戻って行く。一年九組の最上は同じ境遇の生徒達と、最後の順番を立ち並んで待った。

“高校生? 俺は高校生なのか? 所詮まだ高校の制服を着た中学生だと言ったら? 会社を興した者は社長、入学したものは高校生か? 浮かれ過ぎだ”