漫画みたいな僕ら④

実は昼間、
僕と奥山は池袋に『クレヨンしんちゃん展』を見に行っていた。

だから僕は非常にお洒落をしていた。

現在は上着を脱いで、ゴミ箱にのり、モップを片手にドアをガンガンやってる。@かわいいワンピース

まだ空いていないが前祝いだと岩田がビールに手をつけていた。

すいませんすいません
万理音は岩田に平謝りしている。


そんな奴に頭を下げてはダメだ、万理音。
なぜか僕の中で一番悪い奴が岩田になった瞬間だった。

後ろでは奥山がモップを使っていたが、
やはり苦戦していた。

岩田が『外から内鍵あける君』を取り出す。
そのとき小さな声で
「やばいっす、これめっちゃしなります」
と言った彼の言葉を僕はうけとめた。



しなり


現在僕たちが抱えているミッションに一番不要な言葉だ。
柔軟性なんて出されたらこまる。
しっかりがっしりしていないと鍵は開かない。

不安だったが、とにかくやるしかない。
僕は奥山に交代を告げようと振り返る。





おかしい。
あきらかに奥山の造形が変だ。

奥山は肩が外れやすい。
僕は

「京、無理すんな、肩外れるぞ」

と声をかけた。






「いや、実はそれ今やろうかと思って」





いや
実は
それ
やろうかと思って


「肩って外れるときは痛いけど、それ以降は特に痛くない。しかも手も伸びるから」




トルティーヤ先輩!!!



やめてください!!
なにそのスパイ顔負けの感じ!!
求めてないです!!


トルティーヤ先輩をとめて、
一旦『外から内鍵あける君』の使用させていただきたいと懇願した。

すでに合流から30分経過。
百絵がまだかかると判断し、
万理音をコンビニに誘う。
岩田もそれについていくことにしたようだ。

奥山、内藤、僕。
いくつもの危機をこえてきた仲間だ。

僕は壁にそってドアノブをさがす。
そのときには僕と奥山と内藤はある程度コツをつかんでいた。

誰かがドアに耳をつけ、今棒がどの辺りにあるか指示。
1人は棒を操り、
1人はポストから鍵がどこに落ちたかを探っていた。

『外から内鍵あける君』がドアノブに到着したことを感じた。
鍵の場所を探し、目一杯鍵を回る方向に押す。






ぐにゅ






わあ、


すんごい、しなります。
本当にありがとうございました。


絶望した僕は奥山に交代をつげる。
奥山もすぐに絶望し、モップに持ち替えた。
頭の奥でドンキ・ホーテの歌がかすかに聞こえ消えていった気がした。


次に奥山が新しい作戦をたてる。
携帯でドアの位置を確認する、というもの。
かなりいい作戦だ。

携帯画面を見ながら今、
棒がどこにどうあたっているか確認しながらなら
作業は格段に成功に近づく。

奥山が片手に携帯、片手にモップを持ち挑み始めた。

が、

思うようにいかない。

僕もやってみたがまず両手に何かあるとバランスがとれず、力も入らない。
なにより携帯画面を見える位置におくと手が奥まで行かず、
携帯を奥にやるとピアノで何も見えない。


ピアノーーー!!!(内藤ーーー!!)


どちらかが携帯、どちらかモップで二人羽織みたくするのも考えたが、ゴミ箱がこわれる。

なんだ、この上手いことできてるね、
UFOキャッチャーって感は。

奥山は持ち前の真面目さで、モップをつかい
ガンガン鍵を開けようとする。


くそうるせえ。笑


そう感じたと同時に向かいの家の明かりがついた。



おい、トルティーヤ。やめろ。


人の気持ちなんて簡単で、あの頃憧れたトルティーヤ先輩への気持ちは消えていった。


僕たちは一度手を止めて作戦を練った。

ポストから見た床には鍵本体はなかった
多分内鍵を今ある道具であけるのは無理だ
『外から内鍵あける君』にいたっては柔軟すぎて話にならない。


諦めが頭を霞めた。

百絵と万理音と岩田が戻る。
かなり厳しい戦況をつたえる。


みんなで悩む中、岩田はオニギリを食い始めた。
もはや驚かない。
よった岩田はびっくりボーイなのは、
今回よくわかった。



次の瞬間、

「貸して」

低く落ち着いた声が響く。
内藤重人だ。


僕はモップを渡そうとするが、内藤は『外から内鍵あける君』を選ぶ。


確かに。
僕らは間違えていた。
この道具は内藤重人の専属の武器じゃないか。



内藤がゴミ箱にのぼり『外から内鍵あける君』を差し込む。

窓のすぐ下には洗濯機、洗濯機の上に物を置けるようのパイプ棚、窓から左をみると床と天井を突っ張り棒にした靴棚。
その先にドアがある。

障害物は満載だ。
内藤はパイプ棚に『外から内鍵あける君』を置いて、自分のポジションを決めていた。

奥山は内藤の弟だ。
そのくらい最近また似てきた。
憧れがそのまま奥山の見た目に現れていた。


内藤の動向を期待で潤む瞳で見守る奥山
僕もなんとかしてほしい気持ちで一杯だった

内藤がいざ『外から内鍵あける君』を手にしようとした瞬間






『外から内鍵あける君』が部屋の中に吸い込まれていくのが見えた。

取り戻そうともがく内藤。
無理なのは一目瞭然だ。



「おい、こら」
奥山が内藤にそんな口を聞くのを僕は見たことがない。
でも今まさに見ていた。

僕たちはただ、鍵が、開けたいだけなんです!
神様!
こんな!兄弟の仲までさくなんて!
こんなの酷すぎるよ!


と、言いたいところだが、

「なんかそんな予感したんだよなー!」
僕と奥山は内藤免疫が強い。
すぐに頭を切り替えた。


岩田がどこかから戻ってきたのがみえる。
「ハンガーかかっとったから、隙間に無理やりいれてこじ開けてぶっ壊そうとしたけど全然無理や」

なんかの漫画で仕入れたらしい情報をもとに1人ベランダで頑張っていたらしい。



いや、開かなくてよかったです。
ぶっ壊そうとしてんな、びっくりボーイが。
窓の修理代で鍵の救急車呼べるぞ、こら。


僕は焦っていた。

依然向かいの家の電気はついてる。
確実に通報手前だ。
しかもこのままでは岩田に家を壊される。

「鍵の救急し」
魔の言葉を発する手前、奥山が僕を呼んだ。


携帯に埃まみれの映像がうつる。
そこには、今僕たちが世界で一番欲しい銀色の物体がうつる。


窓の下、洗濯機と壁の隙間に、間違いなく鍵はあった。

「もう、鍵をとろう!ガムテで着くはずだよ!」

奥山がモップの背中に小さくしたガムテを貼り隙間に差し込んだ




チャリーン


ある。
間違いなく鍵がある。

何回かチャレンジするが、埃がありすぎてガムテの粘着力が鍵にたどり着く前になくなる。

次に岩田がなぜかゴミ箱に登るが、
お前は一番家の構造しらないし、なぜ今やる気になった?と却下された。

愛すべき岩田。


一番構造をしっている人に任せよう。

そうなった。
ここは僕の家だ。



僕はすぐに携帯を貸すように言った。
携帯で鍵の場所を見ながらドンピシャでガムテを貼る。
でないと、他の何かに触った瞬間、ガムテには効力がなくなるからだ。

ガムテをとにかくたくさん用意しろと岩田につたえ、今度は大きめにモップの背中につける。

携帯には鍵が映り出されていた。
僕は慎重に差し込む。

携帯にガムテープがうつり鍵を覆った。
ゆっくり持ち上げる。


ガムテープの端に銀色の物体がみえる。
間違いな。鍵も一緒に上に上がっていた。
僕は喜びをこらえ静かにモップをひきつづける。

ここで落ちたら次はどこに行くかわからない。
奥に落ちたらもう何も手はなくなる。


百絵を呼んで携帯をわたす。
両手をつかい最後の引き上げをした。







僕の目線にガムテープと鍵がみえた。







「とったぞーー!!!」


歓声がひろがる。
内藤が「すごい」と小さくつぶやき鍵を受け取った。

僕は万理音をよびだし
「さあ、万理音、鍵をあけて!」
とつたえる。













声がする方を向くと、すでに内藤が鍵をあけ中に入ろうとしていた。

動きを止める五人。
万理音だけ、
あっ、あっ、とアタフタしている。


内藤が静かにドアを閉め、鍵をかけた。
それを万理音があける。
生ぬるい拍手が響いた。




こうして、ヌルッと僕たちの伝説の夜は終わりを告げた。

時計を見ると4時。
みんな安堵と大笑いでビールを飲み干す。
岩田が『外から内鍵あける君』を分解して、
熊手部分をそっとしまうのが見えた。





あと、いくつこんな夜が僕たちをまっているだろう。
同窓会で仕事の話ばかりする同級生たちとは話が合わないかもしれないけれど、
僕たちにはこんな漫画みたいな夜が
本当に訪れるのだ。


鍵の救急車を呼んでいたら絶対に味わえない。
伝説をつくる力を僕たちはもっている。

誰が凄いか、何が幸せかなんてわからないけど、
あの日、4時から飲んだビールは間違いなく幸せだった。

面白いを共有できる私の友達よ、永遠なれ。
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左から
内藤重人(ThreeQuestionsの歌。孤高の詩人)
http://naito-shigeto.com

新宅百絵(街を背負う絵描き。幸せの形を描ける人)
http://profile.ameba.jp/yumegiwatofuyunonioi/

奥山京(奥山漂流歌劇団の歌。闇を打ち消すメロディーを持つ)

万理音(静寂のシンガーソングライター。心でぶっ飛ばしてきます。)
http://marion3.jimdo.com/?mobile=1

岩田翔大(coofrecords社長、真面目でぶっ飛ぶ美少年)
http://www.coofrecords.com/?mobile=1

※長々読んでいただきありがとう。間違いなく実話でございました。
登場人物への非常に興味持っていただきありがたいです。
ぜひ、彼らの歌もきいてねー!

岸川