・・・といっても、字を書くアレじゃなくて、〝奇術〟のお話しです。
一口に奇術といっても、D・カッパーフィールドさんや引田天功さんのような大仕掛けな〝イリュージョン〟から、トランプなどを用いて観客の目の前でテクニックを披露する〝テーブルマジック〟まで様々。
私も大の手品ファン・・・以前取引先に日本有数のマジシャンがいらっしゃって、ご自宅に伺うたびにスライハンドマジックをタダで見せてもらい、その鮮やかなテクニックに惚れ惚れしたものです。
そしてそれらとは別に、もうひとつのジャンルが・・・。
それは、テクニックや規模ではなく、話術と間でお客様を笑わせる・・・いってみれば〝客いじりマジック〟とでも言うんでしょうか。
その第一人者が
マギー司郎 師匠
だと申し上げれば、皆さんにもその芸風はお分かりいただけると思います。
私は師匠の 『笑点』 的でホンワカしたマジックというかお笑いが大好きなんですが、先日テレビのトーク番組に彼が出演されていました。
マギー師匠 (本名:野澤司郎 氏) は終戦直後の1946年、茨城県下館市生まれ。
子供の頃から奇術好きが高じ、プロを目指して17歳の時に家出して上京、アルバイトをしながらマジックスクールに通ったそうです。
そしてプロデビューは20歳の時。 場所は道頓堀劇場。
「東京で修業したのに、なんでデビューが大阪なの?」 なんて怪訝に思う女性がいらっしゃるかもしれませんが・・・実はここ、渋谷のストリップ劇場。
1日4回も出番があり、しかもラストは午前3時(!)。
「もうその時なんか、お客さんの殆どは寝てますからネ。 照明さんに少し暗くしてもらって、彼らを起こさないように気を使いました。」
芸人にすれば屈辱的なことですが、そんな厳しい環境が師匠を鍛えてくれたのでしょう。
その後もキャバレーなどで地味な営業をしていた師匠の転機となったのが、TV番組 『お笑いスター誕生』への出演。
7週連続勝ち抜いたことで注目され、一気に有名芸能人の仲間入り。
そのテレビを見たお母さんが、「もしや、息子では?」 とテレビ局に電話。
家出してから16年ぶりの母親との会話に号泣したとか。
本当はテクニシャンなのに、わざと子供騙しのようなマジックから入り、お客さんとのやりとりで場を盛り上げる・・・こんな芸風が多くのファンを魅きつけるのは何故か?
マギー師匠が、「マジックで一番大切な事は何ですか?」 と司会者から番組の最後に尋ねられた時の言葉に、その答えがあるのでしょう。
「それは〝優しさ〟ですネ。 お客さんに優しい気持ちで接すること。 マジシャンがテクニックを見せつけて、『どうだっ!』 という高い目線ではダメ。」
多くの弟子を抱える売れっ子芸人になった今でも、5畳と4.5畳の二間で暮らしているという、下積みの長かった苦労人ならではの一言・・・重いです。
思わず、レイモンド・チャンドラーの言葉、〝男は強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない〟が脳裏をよぎった私・・・益々師匠が好きになりました。