すでに業務を開始している方々の邪魔になるのもなんなので、ボソボソと挨拶らしきものを口にしながら席に着く。
パソコンを起動させAIによって割り振られた各業務のうち「その他手作業」のフォルダを開いたものの今朝もまだ仕事はないようなのでのそっと立ち上がり、なるべく存在を消すようにして給湯室に行きお湯を沸かす。
使い放題のティーパックから何を飲もうか吟味していると蒸し暑かったため冷たいものが飲みたいと思い共同の冷蔵庫を開けると誰かのコーラが入っていて無性に飲みたくなってしまったがまさか盗るわけにもいかないので大人しく水道水をマグカップに入れて飲みながらみんなのお土産コーナーを整理している風に物色する。
キャンディやせんべいやチョコやクッキーが大きなカゴの中でぐちゃぐちゃに入り乱れて入っていたのを綺麗に並べると何か仕事をしたような満ち足りた気分にもなり、水道水を飲み干すと厳選したアールグレイのパックに湯を注いだ。
隣の席の斎藤さんにも淹れてあげようか迷ったけれど、彼は最近忙しいようでほんの少しの刺激も与えない方が良いような張り詰めた空気を纏っているので関わらじとせムニダ。
デスクに戻って持ってきた「FISH CAKE」を読み始める。
未来の東京での有名企業サラリーマンの孤独、移民問題、ヒューマノイドとの恋、温かみのない食事事情などに「穴ぽこ」たちはどこか寂しさを覚え、それを埋めるためにバーに集まる。
僕は社会の穴ぽこだろう、と思うと意識的に鈍くさせていた罪悪感のようなものに胸を握り潰される。
僕の席だと特によく当たる冷房だか除湿だかの風は冷たく、酸っぱく渋くなっていく紅茶をすすながら本を読み、午前が無事に何事もなく、本当になんの仕事もなく終わったのでゴソゴソとやたら大きなカバンからタッパーを取り出して休憩室に入っていく。
事務所内にいた三割くらいの人がその休憩室で弁当やパンやカップ麺なんかを食べるので、昼時は随分とザワザワしていたものの働きアリの法則(Wikipedia参照)でいうところの働かないアリとしての職務を全うした僕は堂々とした態度で窓際かつ電子レンジの近い壁付近の席を確保した。
同じく窓際の席が好きそうな暗いヒョロ眼鏡キャラ担当の四十二歳既婚男性である斎藤さんが近づいてきて、しかし僕のことを好んでいないことも明らかなので困ったようにウロウロしている。
僕が気を使って移動するのが彼にとっては一番都合のいい解決手段となるのだが、敢えて親睦を深めるという茨の道を突き進んでみる。
「斎藤さん、ここ空いていますよ、隣で良ければ」
わざとらしく片手に本を持つことで、ランチどきの愉快な会話なんぞするつもりはないので大丈夫ですよというアピールをする。
「あっすみません」
読書アピール作戦が功を奏したのか、斎藤さんは僕の隣に座ることとなった。