□アンノウンフィールド




チョルジュの肉体を借りたオタツはビルドブレインと目と鼻の先まで辿り着いていた。



「おい」すれ違いざまチョルジュの肩を叩く兵士。


「お、あぁ」唐突な呼び掛けに動揺しながらチョルジュは振り向いた。


「お前ここの担当じゃねぇだろ」全身黒い戦闘服の兵士がチョルジュを怪しむ。


「あぁ…コイツをな?誰かが落としたらしいんだ」オタツはポケットから紫色の鉱石を取り出すと、手の平に載せて兵士に見せた。



「ナンダ…それは」不思議な揺らめきで兵士を魅了する鉱石。兵士が虚ろな目になったところで「ビルドブレインって…どうやったら見れる」チョルジュの声で訊いた。


「コレを…使え」黒い戦闘服の兵士は首にぶら下がったネックレスをチョルジュに渡した。


「コレをどうすれば?」


「その…石に反応して扉が開く…」催眠状態の兵士が言う通り、ネックレスにはコバルト色の石が異様な輝きを放っていた。たぶんティガーブロックに共鳴しているのだろう。


「……アリガト」チョルジュの声で礼を言った。


「あ、あぁ……」催眠状態の兵士は虚ろ虚ろに進行方向を指差す。




暗闇の廊下がこちらの意思を読んだように、目映い明かりで出迎えた。ついに真の自分と対面する時が来た。オタツでさえも念波に乱れを生じる。



あと0015:00…0014:48

14分…。“プシュ”扉が開きチョルジュを招いた。



ひんやりと乾いた空気の一室。ほの暗く高い天井はどこまでも高く感じた。中心にスポットライトが照らされ、ビルドブレインとの名に相応しく雄々しく聳えるタワーが存在した。



一歩、一歩…急く心とは裏腹にオタツは前進する。“カチャッ”冷たい銃口がチョルジュのコメカミにあたった。眼前に気を奪われ他の存在に気付かなかったのだ。


「…お前、誰だ」ボイドが言った。



“フン”ボイドの手首を払う。


撥ね退けられた銃口が床に向かって一発放つ。チョルジュはその場でスキップを踏んで地面を蹴ると、右膝を曲げて宙に跳んだ。右膝はボイドの顎を狙った。


後転してそれを避けるとボイド。直ぐ様膝を立てて応戦の構え。ブーツに仕込まれたナイフを左手に持つと、素早い動きでナイフを放った。



チョルジュは胸元スレスレにナイフを避ける。すぐに反撃の態勢を構えるが、その瞬間…暗い壁の向こうへチョルジュが吹き飛ばされた。




「うっ………」何が起きたのか、チョルジュには理解が出来ない。


「持っているブロックを…寄越せ」



「アカッサ、まだ出る幕じゃねぇんだよ」ボイドが唾を吐いた。



「ベジが首を長くして待ってる。」



「あんなワガママ女、言わせときゃいいだろ?」




たった一撃だが、チョルジュの全身にはひびが入っていた。このままではチョルジュを殺しかねない。オタツはもがいた。


ボイドがもがくをチョルジュ見てオタツの気配に気付いた。「お前、セレーヌか、ここで会えるとはまさかだぜ…出て来いよ、あの時の決着はまだついてないぜ」オタツのこともボイドは知っていた。



「早くブロックを渡せ!」アカッサは情け容赦なくチョルジュを蹴り上げた。うつ伏せの身体は九の字に折れて空中に飛ぶ。その反動でポケットのティガーブロックが転がり落ちた。



「それはナンダ?」ボイドがアカッサに問い掛けた。



「お前たちには無意味なモノだ」アカッサはブロックを握り締めると、また暗い空間に姿を隠した。
そこには瀕死のチョルジュと、ボイド…。


「ナゼ?お前がここに…居る」オタツがチョルジュの肉体から抜けた。



「アカッサに渡したあれは、ナンダ?」




「あぁ…あれか、あれはよく似た偽物さ」オタツは透けた自分の胸に両手を埋めると、手の平の上でプラズマの網にふわりと浮いた物体を見せた。


「ボイド」オタツはチョルジュが戦士の頃のように呼んだ。



「チッ」舌打ちするボイド。



「コイツは関係ない。見逃せ」オタツはチョルジュに目をやった。



「勝手にしな」



「悪かったな…」オタツはチョルジュに向かってそう言うと、歯を食い縛った状態で意識を失っていたチョルジュの額にブロックを近付けた。途端、目映い紫色の光が彼の身体を包んだ。



「ウッゥゥ……」ピキピキと音をたてるチョルジュの身体。



「………」ボイドでさえも無言になる。



身体を仰け反り悶えたかと想うと「あ、アァ?!」チョルジュは目を開いたと同時に全身をばたつかせて飛び起きた。



「カラダ、傷付けて…すまなかった」オタツが謝った。



「は?!」オタツとボイドを代わる代わる見返し、少々痛みのある身体をまさぐるチョルジュ。



「帰るなら今のうちだよ!早く!」



「は、はいっ」チョルジュは転げるようにもと来た通路を走り出した。



「…そんなに自分の肉体が恋しいか」オタツに向かいボイドが言った。



「アァ…恋しいねぇ、息の根を止めたいくらいに」オタツは茶化すようにそう呟きながら自分が眠るカプセルを見付けた。


「どうにでもしろ」もはやエーテルのオタツには手も足も出ない。



すぅっと、幾つかあるカプセルからひとつ選んでオタツは進んだ。

ボイドはその後ろ姿を、どこか刹那げに見届けると何か想い出したように出て行った。


背後に気配が消え行くのを感じてもオタツが振り向くことはない。


無数に横たわるカプセル郡がビルドブレインをぐるりとり囲んでいた。
その中で選んだカプセルだけがほの暗いそこで柔らかな光を放っていた。



中を確認する必要などない。長い間離れていた肉体から微かな心音が響く。少しずつ増していく波動はやがてオタツと同化する。「アンタは…長生きし過ぎたよ」胸にしまったブロックが凄まじいプラズマを放ち出す。










continued