□アンノウン.フィールド
メディサは小さなコピーグラデーション二人に付き添われ、年代物のアンティーク時計が刻を知らせる静寂の空間に居場所を探した。
「マザーのパルスが弱くなってる…」メディサは壁にもたれかかり小さく呟いた。
「マザーはどこに居るの?」コピーの少女が言った。
「近くに…いる」メディサはぽつりと呟くと悲しげな表情になった。
不安な感情はさざ波がさざ波を打ち消し合うようにそれぞれのコピーに伝わる。そうやって一個のコピーが持つ感情を同様に感じるごとにやがて強い波形の乱れを生じた。メディサは存在理由が乱されているのだ。
「あのコたち…感情が高ぶってた」一人が言った。
「コピーたちはメディサを拒んでいるの?どうして?」続いて小さな割に大人びた少女が言った。
メディサは解っていた。「シスターが…近付いているから」
「メディサはワタシたちをずっと守ってきた…どうして?どうして邪魔者みたいに言われなきゃいけないの?ね、シスターはワタシたちを苦しめる為に」「違う!!!」メディサは髪を振り乱し、見たことも無い怒りを露にした。
しんと静まりかえる二人。
「ごめんなさい……でもわかって欲しいの…せめてアナタたちだけでも今は」メディサは胸の奥から込み上げる例えようも無い怒りと哀しみで押し潰されそうだった。
「メディサ?ゴメンね?!許して…」弾みで口にしたことを後悔した。
「身勝手なのはワタシたち、力を合わせるべきなのに」大人びた少女はメディサの波長を受け取ると、そう言った。
そして少女二人は、急に押し黙ったメディサを食い入るように見つめた。心が遠くにあって虚ろな視線はある一点から反らされることがない。
“メディサ!メディサ!アナタの名前でしょ?…返事してっ…”実流樹の思念は前とは比べようもないほどクリアに届いてきた。
「……シスター…」
“メディサ…眼が見えないのね…”
「わかるの?」
“アナタの思念には…映像が無いの”
「悲しまないで…シスター。ワタシは見えない代わりにたくさんのものを感じてきたわ…」
“つらかったでしょ…”
メディサは実流樹のひと言を、瞼を閉じて噛み締めた。「シスターが見える世界は…スゴク綺麗…ワタシには感じるの…でも、色を知らないから…シスターが見てる世界。見てみたい」
実流樹はメディサの心情に困惑しながら応えた。“メディサ…自分の眼で見るの”
「……だってワタシ」
“アナタたちを迎えに行くから…その時、私がアナタの眼になる”
「どうやって?」
“どうやってでも…見せてあげるから…”
「…………ワカッタわ、シスター」メディサはしっかりと応え、そして「サイド…ナイン…S.ワンオーツー。10秒以内、AI にアクセスしてみて…」メディサの思念は実流樹の体力消耗によって途絶えた。
□トランスポーター機
“サイドナイン…S.ワン.オー.ツー”
実流樹はメディサから思念を受け取ると、身体の芯が折れ曲がるくらいどっと押し寄せる疲れでよろめいた。
「サイドナイン!S !ワンッオーツー」実流樹が叫ぶ。
「ジョルジオ!サイドナイン、ワンオーツー,S…ワンオーツーだ 」慌てた武光がジョルジオに、実流樹の言葉をパスする。
ジョルジオはBKP を操り言われた座標を変移型計測で導く「キャッチした!」あらゆる地球上の悪条件がアンノウンフィールドを野放しにする原因だ。地下に埋もれた特定部位をキャッチするのは至難の技だった。
「掴んだか……」武光が言った。
「オネェチャン?…」旬が実流樹の顔を覗き込む。
「シュン…大丈夫だよ」力なく微笑んだ。
「ミル、話せるか」武光も心配そうな面持ちで口を開く。
「う、うん…」
「彼女たちは…元気か?何人コピーは存在する」武光は自分の娘とコピーらをダブらせていた。
「オトウサン、オネェチャンは疲れてるんだよ?休ませてあげてっ」
「シュン…大丈夫、オトウサンは急いでるんだよ。困らせちゃダメ」
「フンっいいよぉだ」旬はへそを曲げると、隅っこの壁に頭を押し付け背中を丸めた。
コックピットに居たジョルジオも、小さな旬が気になり終始、様子を眺めていた。「……小さな胸を痛めてるんだろ、もう少し言葉選んでやれよ」
「今はっ」武光がジョルジオの言葉を遮り、またすぐに「今は…細かな情報を分析することが先決だ」
「バァバから連絡が来ないの…きっと何かあったんだ」実流樹はいつも通りにBax をそう呼び、唐突な不安を露にした。
訝しむジョルジオの様子に気付いた武光は、「あぁ、Bax から連絡が来ない。ということなんだ」と、その場を取り繕う。
「指揮官は小夜子女史…だと聞いたが、そういうことか?」敢えて他人の事情にとらわれなかったジョルジオも、異質な戦争状況に整理がついてない。
「…ジョルジオ、少し複雑な事情だ」
「あぁ、いいさ、アーマノイドが居たり、子供が居たりだけで…じゅうぶん俺の理解を越えてるしな」
「すまないジョルジオ。情報も状況も流動的過ぎて、順応するのに必死なんだ」
「気にするな、タケミツ」
実流樹と共に合流したサムが、そこに居た。
「オイ、どうも俺の存在薄くないか?」サムが仁王立ちしていた。
continued