□ツァイvsマッカス
岩肌を真っ赤に染めて熱射光が拡大していく。倒れ込んだ格好でツァイは逃げ惑う。ツァイの視界に入ったのは尖った巨岩たちだった。巨岩は鋭角になった先を付き合わせてバランスをとっている。
(しめたっ)ツァイは心で叫ぶと全神経とエネルギーを集中させ巨岩の狭間目掛けて突進した。
50メートル足らずの距離がこんなにも遠く感じたことはない。あと……あと2、3歩…岩肌を掴み、力の限り引き寄せようとした。
「ウォっ」何かが足首を巻き付いたのが判った。
掴んだ岩肌を放すまいと踏ん張るツァイと、マッカスが放った翼の先が引き合う力でツァイが宙に浮く。
《10秒もすれば黒焦げだ》翼のビーストからの念波。咄嗟に探すと、ビーストがいた場所に黒い球体が浮かんでいた。「あれ…か?」黒光りした球体の周囲を囲んで10個の小さなリングが青い閃光で結ばれシールドを張っていた。食い縛るツァイが反撃のカードを切ろうとした時、“ピシュピシュピシュ”レーザーガンが連続して発射される音を聞いた。
その内の一発が足首を縛っていたそれに命中したらしい。一気に解き放たれ、岩の狭間の中心に頭から突っ込むと、とんでもない衝撃を頭部に感じて気を失った。
……………
アーマノイドの海道は太陽風をまともに食らう、
《摂氏350…400.450.500…800、1200.1350度…太陽風通過中、太陽風通過中、シールド限界まであと30秒。照射度68%…55%35.30.25%…15%…10%8.7.6.5.4.3…1…太陽風,通過しました》「ハァハァハァ…」海道の意識がアーマノイドにリンクし、リアルタイムで緊迫感を与えている。
ぐったりと横たわるアーマノイド。仰向けで空を仰いだ。「…死ぬかと……想った」空に手を掲げる。アーマノイドの指先から腕、脚や胸元、硬いアーマーは所々が溶けかけ焼けて黒染んでいた。
□アンノウンフィールドB
042:51(43分…か)単独での潜伏限度はどんなに見積もってもあと…12分。あてにはならないがエヴァーダからの援護もあるという。
それまでに片をつけなくては…。オタツは焦っていた。
積み重ねた嘘はビルドブレインとの交換条件通りに全員を翻弄し、オタツの望む結末は、まさに目の前だった。このフィールドはCSX の力を半減させるシールドで覆われている。まさに孤独な戦いにふさわしい条件だ。
基地の中枢部へ脚を進み入れ、着実に近付いていく段になると、後ろめたさと罪の意識は…ベッドで劣化し眠っていた五感を逆に鋭く研ぎ澄ましていた。
「どうして…二度もこんな目に遇うんだよ」Bax から解放されたはずの門番兵士は嘆いた。
(今は黙って言う通りに動いてりゃいいんだよ)オタツのエーテルが憑り移ってはいたが、言語中枢だけを自由にしていた。それは、すれ違う他の兵士に怪しまれぬ為だ。
「ボクをどうする気ですか」兵士どこか諦めの口調で、自分の内側に潜む何者かに問い掛ける。
(これ以上喋るならお前を完全に寝かせるよ)オタツはテレパシーで応えた。
「ワカッタ!ワカリマシタ」(そうだ、初めから大人しくしてな)
兵士はしばらく黙って歩いたが、堪らず立ち止まった。「ひとつ!ひとつだけ質問していい?」(……なんだいっ)オタツは苛立ちながら返す。
「アンタ、あのアンドロイドと仲間?」(………そうだ)Bax が攻撃を受け、兵士と分かれたのを見ていた。使い勝手が良さそうな兵士に目を付け、憑り移ったのだ。
「ウッ」兵士の瞳孔がカッと開くと、意識は完全にオタツが占領した。それ以上追求されるのを嫌ったのだ。「しばらく黙ってもらうよ」兵士の声を借りオタツが言った。
変貌した兵士の目が作戦実行からの時間を確かめる。
043:35……。その時《チョルジュ!応答しろ!》イヤホンレシーバーが唐突に鳴り出した。この兵士の名前はチョルジュか…。そのせわしさと裏腹にオタツは冷静だ。
《おい!ダイジョウブなのか?!応えろ!》声のニュアンスからはこの兵士を心配しているようにも想える。
「あっあぁ……怪我はない」もう少し気を探ることにした。
《チョルジュ!生きてたか!皆心配したぞ、ドコにいる?》
「あぁ…」オタツは咄嗟にチョルジュの記憶を拝借した。「サイドシックス、N 125地点寄りだ…」
《そうか!じゃそこで待ってろ、今すぐ仲間をよこす。機械兵がうろちょろしてる気を付けろよ》
「あ、ワカッタ…頼む…」そう言ってイヤホンレシーバーを切った。
チョルジュの右手は平型に変型したティガーブロックが握られていた。
□アンノウンフィールド(尋問室)
どれくらい眠っていたのかわからない。記憶の濁流に押し潰され、もがく自分が吐き出す二酸化炭素の泡が濁流の天井高く昇っていく…。
強力な電磁パルスはBax とAI との連携を遮断していた。昏睡は埋もれるBax に夢を見させている。現在と過去が記憶の束となって螺旋に捻れる。
“マザー…起きて”声無き声がBax を呼んだ。聞こえたのは…遺伝子を分け与えた誰かの声だろう。
意識の振り子は思念パルスの波を受けて揺れた。それはBax の脳神経に微細な刺激となって作用する。
「………ウッ」感じるはずもない痛みが全身を駆け抜けた。
まだ微動する余地のある右手の人指し指に思念パルスを集中させると、“ピクリっ”と反応する。同時に中枢回路の起動準備が始まり重たかった瞼が開いた。
それを何度となく繰り返し、全機能の復活を試みたが、無情にもマインドプログラムの全復活は叶わない。Bax は最初から起動可能なモード洗い出す。奇跡的に視神経にアクセス…頸椎組織…《視野回復中》探索機能モードに入った。だが、明度も色度も安定しないモノクロームの視界が広がるだけだ。さらにノイズが邪魔をして眼球に捉えた光景を伝達することも出来ない。
「どうあがいても、ココの情報は残せねぇよ」ボイドがそこに居る。
今はとにかくボイドの肉声から些細な情報も逃せない。Bax は小夜子の聴覚に切り替えた。
「アンタは見ている光景をAI に転送出来るんだろ?…でもこの空間では不可能だ。妨害シールドが張ってある」ボイドは憎々しい淀みを含ませて言った。
ボイドの表情が気になり声がした方向に視線を移そうとしたが、首根っこががっちりつかまって動かない。
やがてぼんやりと自分らしき像が目の前に浮かんだ。ガラス張りの狭い空間に…自分の身体がすっぽり囲まれているのが判った。
多面体の中心に浮いた状態の自分。意識を凝らしていると、無数の細い線が縦にも横にも、あらゆる角度から自分の肢体を貫いているのが見えた。
continued