□リセントラクチャールーム
「オトウサン、ボクは大丈夫だよ!今すぐオネェチャンのトコ行こうよ」珍しく旬が聞き分けのない様子だ。
「シュン…お前1人で行かせるワケにはいかないんだよ、焦る気持ちも分かるが…オトウサンにも準備が要るんだ」武光はさすがに困った顔をしている。
「シュン…ベストを尽くすんだろ?まだオトウサンはベストじゃないんだ」廊下まで漏れた旬の我が儘を耳にした肇は、武光に助け舟を出す。
どころが「オジイチャン、何とか言ってよぉ、オトウサン、オネェチャンのトコ連れてってくんないんだもん」
「シュン!」想わず声を荒げる武光。
「止めろ!」肇はそんな武光を睨んで制した。
「………」旬は押し黙り俯く。
「そんなにオネェチャンが心配なのか?シュン」肇は屈み込んで旬の目を覗き見た。黒く光る眼差しは、まるで子供の頃に見た仔犬のように恐怖に怯えている。
「オネェチャンは狙われてるんだ!早く近くに居てあげないと、殺されちゃう」
「シュン!もう言うな!」現実に押し潰されそうな武光は、つい感情的になる。
「グスっ…………」ついに鼻水を啜りだした旬には武光の想いが伝わらない。
肇は旬の両肩に手を添えると、静かに抱き寄せた。そして「シュン?バァバが居るじゃないか…バァバのコト、信じてないのか?」
「………信じてる」
「なら、しばらくは大丈夫さ。シュンの心はちゃんとミルも分かってるから…想ってるよりミルは強いんだ、そんなに心配しなくていいんだ、その心が余計にオネェチャンを不安がらせるコトもあるんだよ」肇は旬の瞳を真っ直ぐに見つめ諭した。
旬は涙が零れ落ちそうだった目を瞬きする。「……………うん」大粒の涙が頬っぺたをつたう瞬間、それ以上に満面の笑みを浮かべた。
□アンノウンフィールド…地下空間1
光が閉ざされた地下空間。そこでコピーグラデーションたちは、ひたすら念波を送り続けていた。
「……どうして?どうして返事が来ない…の」不安そうな1人が言った。
「ココがドコなのか…私達にさえ判らない。このまま居場所を伝えられなければ…。見つからずにいたのは…そのせいだったのね、きっと」メディサは絶望したように項垂れた。
「フンっ…結局、名前を与えられただけのお飾りなんだわ、アナタ」
AI は実流樹が鯛我肇に引き取られた後のコピーオリジナルを選んだ。オリジナルにはメディサと名付け、グラデーションの調和を保たせていたのだ。
「……冷静になりましょ…」メディサが皆に目配せをする。
これまでなら直ぐに心音が安定し、互いの内的コミュニケーションが成立していた。
「どうやらアナタの信頼も尽きたみたいね」さっきの1人は募らせてきた想いを一気に吐き出しているようだ。
「私は……アナタたちを征服してるつもりなんてない」
「は?!笑わせないで!アナタはコピーグラデーションの全員を操作する権限を与えられている。自由にしてイイっていう権利をね!」
「私は……皆を操ろうなんて想ったことは一度もないわ」
「嘘は止して!いつかアナタも欲望を表にする時が来るわ」
「皆が一緒に居る限り…それはない」メディサの身体が一瞬ふらついた。
「だいぶ気分がすぐれないようね…メディサ」
そう言われて異変に気付く。頭に浮かぶ文字が言葉に出来なくなっていた。平均感覚が覚束なくなりフラフラとよろめいた時、手を差し伸べる幼い2人のグラデーション。
「メディサ」「私の肩に掴まって」幼い2人は小さく呟く。
暗闇で温かい手の温もりに触れた瞬間。“その子たちから離れちゃダメだよ”どうやらその声はメディサだけに聞こえたようだ。その証に反応する者が見当たらない。
continued
□アンノウンフィールド……地下空間2。
Bax は重厚な扉を眼前にして立ち止まった。「……お前のID コードを教えなさい」
「いくらアンタでもそれだけはムリっ」若い兵士は拗ねた顔をしたが
、Bax には見えない。
「…指紋認証でもいい…ID コードが嫌ならお前の指引きちぎって、開いてもいいぞ」
「イヤだ!イヤだイヤだ、絶対イヤだ、それだけは…」
「なら教えなさい」
「あの…X233Y85 …です」
Bax はボタンを操作することなくAI にアクセス。自分の人指し指をパネルに近付けただけで一瞬のうちにコードが入力された。「アリガト」
「どう…いたしまして」
シャッター扉は円が回転しながら羽根を畳んでいく。閉ざされた地下空間が視界に広がろうとしていた。肩に載っかってる兵士がもぞもぞと動くと、突然目映い光の塊がBax を襲った。