□トランスポーター機



唐突に胸が締め付けられ呼吸が苦しくて目が覚めると、朧気だが誰かに呼ばれた気がした。


“誰”………。実流樹は思念の相手に問い掛けてみたが、感じられるのは砂丘の砂ほどに微細な思念だった。それはまだ、ひとつには結ばれずに結局、ただのノイズに変わってしまった。



探るのを諦めて眼前の無機質な天井を眺めた。ふいに寝返りをうとうとした時、身体の自由を規制されていることに気付いた。無闇に暴れたせいでこうなったのだと改めて想い返す。途端に空しさが湧いてきたりしたが、ブースの中は不思議に穏やかでいられた。





まだ意識を取り戻さない早瀬。サムはその寝顔を眺めては腑に落ちない想いで首を傾げていた。


「サムさん」ふと、ブースの中の実流樹が呼ぶ。


「……なんだ?」


「……早瀬さん、どうなんですか?」


「バイタル値は正常だ、受けたダメージがどんなもんだか知らねぇけど…回復するのに時間が要るんだろ。なんだ?心配してるのか」


「……わかりません。自分の気持ちも、早瀬さんの気持ちも…」


「早瀬の……………心が、読めないのか?」


「はい、何かのショックで頭の中が雑音だらけです。ココに眠ってる早瀬さんは…確かにあのミシェルのクローンなんです。でも早瀬さん自身の記憶にリンクしていないみたいなんです…だとしたら…」



「…コイツに、いや、正確に言えばコイツになる前の…コイツが…あぁっめんどくせぇ!」サムは早瀬を指差しながら頭を掻いた。



「オリジナルがやったことで、今の早瀬さんとは違う…と言いいたいんでしょ?」実流樹は小さく呟き、少し離れたもう1つのブースを見つめた。



「そうさ、仲間を殺したのは、あくまでもミシェルとかいう女なんだろ?コイツに自覚が無いのも当然じゃないのか」



「……もしも肉体のみのクローンなら、サムさんの言う通りかも知れません」



「エ?それはよ……まさか死ぬ前までの記憶も、そのまま持ち越せる技術があるってのか?!」



「パストインサートはもう実用化されているはずです。何百年も昔から研究されてきた不老不死はパストインサート…が可能にしたんです」



「肉体を若返らせ、過去の記憶を甦らせれば…結果的に死なない人間。というワケか」


「でも…」


「コイツがただのクローンか、昔の記憶が消されてんのか…一時的に忘れてんのか…お前にも判らないのか?」


「はい。早瀬さんの意識に入った時、早瀬さんではなく、ミシェルの方が応えてきました。あれは早瀬さんを装ってましたけど、あのパルスは早瀬さんとは違いました」疑惑と困惑が入り乱れている。



「お前らの理屈は掴み所がない上に、こ難しいが…中身は解る」


「どう…解るん…ですか?」


「出来ることなら…“信じたい”って気持ちさ」




実流樹は軽くサムと目を合わせると瞳を潤ませ、そして強く瞼を閉じた。閉じた状態で深呼吸したのは泣くわけにはいかなかったからだろう。実流樹は気丈な態度で顔を上に向け、充血した目で再びサムを見つめた。


「早瀬さんは早瀬さんで…人格は成立していて…私が言う人格は別に操作されてるとしたら」



「………コワっ。そんなコトも出来んのか」



「………判らないけど、あり得ます」



「だとしたら…お前」



「私…早瀬さんの人格を殺すところ…でした」



「危なかったな…お嬢」



「……はい。カイドウさんとサムさんに助けてもらいました」



ブースの中、仰向けに横たわった実流樹はすっとサムを見上げると、微かに首を持ち上げて礼を示した。





□ビーストサイド二機めの“ガシュマ”


ツワンドの“ドゥキア”から発せられた戦闘パルスを受信して現れたカッツェボンズはビーストサイドを代表する荒くれ者だ。


世界各地で起こったテロ行為のほとんどをカッツェボンズ企て、手下に仕切らせた事件だった。



略奪と殺戮は彼らの通過した証となって残されたが…しかし、彼らが手を付けていないエリアも存在する。それがこのアジアエリアからアメリカエリアまでだ。宇宙放射能と地場の乱れが激しいエリアを奴らは嫌っていたからだが、最近得た(延命の箱)の情報から続々と仲間を呼び集め出していた。




「ツワンドめ、このカッツェボンズを差し置いて己れらだけが延命の箱を手に入れようなどと姑息な…そう易々といくかぁ」


「カッツェ様、ごもっともでございます。時は我らに味方しておりますこの新時代に最も相応しいリーダー“カッツェボンズ様”こそ、延命の箱を手にするべき…御方」




マッカスヒューは高々と祝盃の掲げると、恭しくカッツェの目前に差し出す。



「ウォォ…ガハッハッハ、いざ宿命のバースプレイス」


「いざ!!」マッカスヒューは円盤状の甲羅を鮮やかな鳳凰の翼に変化させ美しく広げて見せた。




□RS (海道の部屋)



《ホンマにええんか、カイドウくん》


「……はい」


《意識世界はイメージに過ぎんが、肉体を変化させて元通りになる補償はないんや、後悔しても…遅いんやで?》


「アーマノイド計画の発案者は僕です、幸い…プロセスは最終プロットに入った所だったので」


《自らを実験台に、するちゅうんか》


「…ハカセ、大丈夫ですって、シュミレーション値に1ミリのデメリットも無かったんだし」


《………ホンマに頑固者やな》


「それは誉め言葉として、聴いておきます」



《んあぁ、そや、誉め言葉や》



海道は、橋場のキレかけの関西弁を久しぶりに耳にすると、懐かしくなって笑った。


《なん笑ぉとんねん》


「何でもないです、それより!」


《あぁ解っとる。明日…準備することにする。途中で恐わぁなって逃げたら承知せぇへんぞ!》



「…………解ってますって」海道はやっと使えるようになった実体の両手を…目の前で開いては握った。「…僕がやらなきゃ…」と呟いた。



















continued