□ATI 機内


一定の距離を保ったままで追尾する敵ビーストの戦闘機をスクリーンに映して探る朴の指先は、グラス素材の冷たい表面を滑らかに跳び跳ねていた。



「………どういうことだ」地球上に存在する数多(あまた)の科学物質から敵機の外壁素材を分析して狼狽えた。


「……どうか、しました?」それは、ずっと落ち着きのない朴の様子を横目で観察していたサイモンにもプレッシャーとなって伝わる。


「この敵機は…ハイメタルで出来ている…」


「それが何か?」サイモンは不思議そうな顔になった。


「エヴァーダで開発された素材が…何故ビーストの戦闘機に使用されてるんだ、変だろ」



「そりゃ、スパイでもしたんじゃ」



「この数日エヴァーダに居て確信したよ、これはただのセキュリティーシステムじゃない」朴は自分の手首のセキュリティアを見せる。



「…………」



「セキュリティアは、危険回避やレシーバー機能だけじゃない、生命維持も、あるいは簡易蘇生機能まで備えている。エヴァーダ国の隅々まで国民の誰も彼も監視状態にあるってことだ」と…朴は嘆いた。



「でも…僕らは着けてないですよ?」そう言って朴に手首を掲げて見せるサイモン。



「聞こえは良くないが、君とサムの傍にはずっと身元保証人がついて居た」


犯罪者でもないのに、そう扱われていたコトを知らされ少し不機嫌になるサイモン。 プイッと朴から視線を外すと「何が言いたいんですか」



「詳細は俺にも答えられないが、あれはだいぶ繊細な原子配合と技術と、そして特殊なプラントが不可欠らしい、そんなモノ…誰に知られることなく外部に持ち出せるワケがない」



「……そう、ですよね…」



「ウンザリだな…もう」



「それの開発元の責任者って…」



「このATI を作った人間の一人さ」



「そんな?!…ってコトは?!ミルキが、危ないってコト?!」サイモンが立ち上がった。




《心配いらねぇよ!サイモン》サイモンの嘆きを聴いていたみたいに、サムの声がした。


「サムさん!」


《間一髪のとこだったがな、今は二人ともスヤスヤだ》


「早瀬マリは、変わりないのか?」



《………俺の口からも言えねぇくらい恐ろしかったぜ》



「ミルキちゃんは?!」



《あぁ、お嬢は当分起きないぜ》



「それ、どういう意味ですか!」



《セキュリティアから火吹き出してな、エーテル体が不安定になってるんだとよ》



「それって…大丈夫なコトなんです?」



《ワッカンネェよ、カイドウがそう言ったんだ、俺には責任取れね》



「カイドウ?!そこに居るのか?」



《あ……いやっレシーバーで話しただけだ》



「……そうか…」朴が落胆したのはサムにも読み取れた。



「無責任ですっ僕がそこに!」間を縫ってサイモンが叫ぶ。



《ダメだ!》「ダメに決まってるだろ!」朴とサムが同時に反論した。



「…わかりましたよ…」サイモンがシュンとなる。



《安心しろ、仲間が絞られれば、打つ手はきっと見つかる》



「……はい」



《まっ、だいたい判ってきたけどよ》向こう側に居るサムが意味深な笑みを浮かべてる気がした。







□陸空両用飛行船“ドゥキア”



戦闘スーツを纏ったツワンドは、我が遺伝子をコピーした戦闘私兵の眠る乳白色のカプセルを眺めていた。



「コピーにコピーを重ねて、生きてきた」



小さな段差に腰を下ろしてトラロアウスはその背中を眺める。




「元は人間のはずが…今では痛みも苦痛も感じない醜いオブジェ」ツワンドはたまにデリケートな一面を見せる。今もその時だった。




トラロアウスはツワンドの悲哀に満ちた背中に…昔の面影を、重ねるのが好きだった。





《ツワンド!応答しろ!!》機内に響く怒号。



「か、カッチェ.ボンズ」トラロアウスが目を見開いて言った。



「とうとう嗅ぎ付けたか…奴が来たとなれば…血の海は免れまい」ツワンドはそう言って、ひとつひとつのカプセルを愛しそうに撫でながら歩いた。



カプセルは触れられた順に、乳白色からコバルト色に変色していくと、まるでツワンドと交流するかのように“キリキリ”と鳴いた。
















continued