□トランスポーター機
数々の戦場で、命の綱渡りを制してきたサムも、うら若き女同士が魄をかけてぶつかる様子を、ただただ見ているしかなかった。
その時の早瀬の肉体には、侵入した実流樹のエーテル(思念体)と早瀬の意識が、ありのままの偽らざる精神世界の渦中にあった。
《……ミルキちゃん》
《そんな呼び方しないで…………もう想い出したはずでしょ?私の事》
《………………》
《アナタは私のカ.ゾ.クを……コロシタっ…私、ゼンブ想い出した》実流樹は涙をこらえているのがわかった。
《カゾク?》作られた早瀬マリの自我が消え、ある意識が甦る。
《クゥ………》逆流する憎しみを押さえつける。
《アナタと……同じ顔をした生き物は…アナタのカゾクだと?》
《そうやって…アナタは私たちを人として扱ってはくれなかった……それどころか!一片の紙クズよりも粗末に、次々とグシャグシャにして捨てた!》
《…………それが、今アタシに言いたいコト?》
《出来るなら……想い出したくなかった。このままアナタを信じていたかった》
《……………》
《ナゼ黙ってるの!?何とか言って!》
《残念だよ…アナタとはうまくやっていけそうだった》
《………何のつもりで…ナゼ今さら私たちの前に現れたの》
《…バックスに…聞きなさい、アタシとアナタを再会させたのはバックスだから》
《アナタは存在してはいけない!この次に来る世界に!アナタは居ちゃ…いけない!》実流樹は自分の記憶を遡った。
西暦2090年…。
まだ実流樹が実流樹として存在しなかった幼き頃…。バイオプランターには、世界救済条約(G オメガ計画)によって世界中から精子と卵子が収集されたが、人類救済を名目にして各国の裏事情は暗闇を迷走していった。
ランダムに組み合わせた多くの命が産まれ、遺伝子操作を繰り返されたその中に実流樹の始まりもあった。実験用に産まれた多くの生命は、ankown .field(アンノウンフィールド)を押し広げる為に幾億のパターンで産み落とされていく。
中でも生命体X188 Y03のプロトナンバーで区分けされた赤ん坊は学者たちに賛辞された。その赤ん坊には…まだ未知能力に目覚めていない若き鯛我小夜子の遺伝子が組み込まれ、クローンとして増産されることになる。
そして……時に悲劇は起こった。
《ミシェル.N(ナイト).アダムス……アナタの本当の名前。冷酷無比の女学者》
《…そうだったわね。人類を救うことより、自分の名誉が欲しかった、作り物に尊厳なんて…考えもしなかった》
《だから…アナタには消滅してもらうしかないの!》
《アナタも消えるわよ、ミルキ》
《………そんなコト、どうでもいい!!》
一瞬、静寂が流れた。
《ウワァァ!!……ングッ…イタイ!!ヤメテェェェ!……》早瀬の精神核が電子変換されてゆく。それは生身の肉体から皮をそぎ…引き千切られるほどの激痛だった。
《それぐらいの痛みで!許したりしない!》
《ギャアァァ………!!!!》空間を切り裂くような早瀬の叫びは、様子を見守っていたサムを仰天させた。
続けて激しく悶える早瀬の身体。
「オィ?……何だ?!」サムは慌てふためく。
《サム!サム!》海道の声だ。
「お、お前、」
《説明は後!す、すぐにセキュリティアを二人の腕に戻して!》
「あ!?あぁ、ミルキのはぶっ壊れてるぜ?」
《何でもいいから!言う通りにしてくれ!》
「わ、わかった!」
サムは暴れまくる早瀬の身体を押さえつけ、海道の指示したように、それぞれのセキュリティアを手首に戻した。
数秒後、何事もなかったような静けさが辺りを包んだ。
《どう?》
「あ、あぁ……いったいどうなっちまってんだ?俺はどうすりゃ」
《………これは戦いのノロシに過ぎないんだよ》
「…ノロシ?冗談じゃないぜ、騙し合いじゃねぇか…」サムは早瀬と実流樹の寝顔を眺めては頭を抱えた。
continued