□トランスポーター機内
実流樹は生体管理ロッドに繋がれた早瀬の肉体を眺めていた。
初めて出会った時、20代中頃だと海道から聞かされていた。早瀬の知性と美貌は溢れんばかりで、女性の立場からも羨むほどだった。しかし、この数日間で彼女の印象は変化した。目の周りは隈で縁取られ、今もこうして辛そうな表情をしている。そんな早瀬の顔をじっと見つめながら実流樹は「なぜ…私の前に現れたの…」そう呟いた。
AI で制御された機内には小刻みに航行データが更新され、静寂のそこには微かな電子音と空気の流動さえ音で感じ取れるようだ。しばらく実流樹は瞼を閉じると、自分の鼓動に耳を傾けた。左手をそっと心臓のあたりに運び、それからその左手は流れのままゆっくりと早瀬の手首に伸ばされた。
実流樹の左手の先に早瀬のセキュリティアがあった。華奢な白い手がセキュリティアのロックラインを解除すると、“カチっ”と渇いた音がした。
それから空間にBKP (バーチャルキーポインター)を呼び出し、慣れた操作で早瀬のパーソナルAI にアクセスした。無意識に数日間で蓄積された早瀬のデータを…実流樹が書き換え、自分のものと取り換えた。
様々な記憶と知識が実流樹の頭脳をかきむしる様に、歪な心理状態と幾何学に変換された記憶の嵐で渦巻いた。
「ウゥッ………」突然、手首の皮膚に刺すような激痛を覚えた。早瀬のセキュリティアには特殊な仕組みがあるようだ。どうやらこの仕組みを使って空間移動しているに違いない。
「何してんだ?お嬢」聞き覚えのある声。実流樹は驚いて振り返った。
「どうして?」普通なら思念波をキャッチ出来たはず。
「相当驚いたようだな、俺も驚いたがな」
「サムさんはバァバと出たんじゃなかったの?」
「あぁ一緒だった、だが途中で気絶して…何が何だか知らないうちに」
「ウゥッ…」対話もあやふやに、再び激痛に襲われた。
「どうした!」
それでも自分の異常に気付いていた実流樹が「サムさん…ココから離れて」喉元から絞り出すような声を発した。
「離れろっつったって…ココは空だぜ?飛び降りるワケにはいかねぇだろ」
「いつもの私じゃないの、お願いします…はぁなれてっ!」実流樹は苦しそうに胸を押さえて言った。
「お前がしたソレで、何する積もりか…だいたい判るんだぜ」
「………お願いって言ってるじゃない!!」
「ウォッ」サムが脱力した瞬間、同時に背中から壁に張り付けられた。
「これ以上……私を怒らせないで」
「な?お嬢…クッ…焦るな、お前にはまだやるべき仕事があるだろ、危険を冒すな」
「もう…自分にも止められないの…ドンドン憎しみが湧いてきて…もうどうしょうもないんです」
「待て、奴に入れば!」サムは必死に叫んだ。
叫び声と共に実流樹は崩れ落ち、その肉体からエーテルが離れた。実流樹の肉体から着脱されたセキュリティアがスパークして火花を放ち…青白い実流樹のエーテルは早瀬の肉体に侵入した。
侵入された方の、早瀬の肉体は…ベッドの上で仰け反り痙攣しては悶え苦しんだ。まるで実流樹を拒否するかのように…。
continued