□海道の意識世界




「俺がゴースト?」サムは眉をひそめた。



「ゴーストなんかじゃないよ…サム。あれは百年も前の迷信、ちゃんと科学で証明されてる、“エーテル体”だよ、さっきから言ってるじゃない」



「どうやったらそうなる」今度は海道を睨んだ。



「ソレっ」海道はサムが手首にはめているセキュリティアを指した。




「……じゃ今、俺の身体は」



「んん…今って表現はないよ、“ニュートラルポイント”って言ってる。離脱したそこに肉体とサムの時間が留まってるんだ」海道は科学知識を身振り手振りで説明した。



「そんなこたぁどうだってイイ、さっさと経緯(いきさつ)を説明しろ、こうしてる間にも」サイモンや他の連中が気がかりだった。



「だから、ココには時間の概念なんか無いんだ、ニュートラルポイントはまた元の場所と時間に戻れるという意味」



「…そうなのか?」サムはうまく理解出来ないまま理解したフリをする。



「見てて」海道はそういうと、おもむろに背後の、あるはずもない雪山に向き直った。



サムは海道の行動を黙って見た。



ぼんやりとした“刻”サムにはどれだけの長さに感じただろう…。




「あぁ…」眼前の景色が白原から緑葉が溢れる草原へと変わっていった。



「ココが時間軸に左右されないのと…同じ理屈だよ」



「お前らのテクノロジーはどこまで進んでいるんだ」



「ただし、この概念が通用するのはバーチャルとの往き来だけ」



「つまり?」



「オタツさんと早瀬さんは、空間を泳いでるから、それよりも負担は大きいしリスクも高い」



「な、なんで、そんなリスクを冒す」



「…………僕には、そこまで判らないけど」



「ゴーストおばさんは捨て身なのか?」



「失礼だぞ、エヴァーダを守ってきた勇者を“おばさん”扱いするなんて」



「わ…わかった。とりあえずわかった、で?」



「うん。ちょっと言いにくい話なんだけど」



「……どういう?」



「何がキッカケで、君たちが行動を共にしてるのか、勝手に探らせてもらったよ」



「………はぁ?」海道の言葉には違和感があった。サムは訊く体勢になると「お前は知らなかったのか?」



「あぁ…寝耳に水だよ」



「じゃどうやって知った」



「オタツさんから聞いたんだ」



「あ、ゴー………」いつもの癖で言いかけた。



「オ・タ・ツさん」海道がたしなめる。



「ははぁ……まんまと」サムにはピンときた。



「さすが、感は鋭いみたいだね」



「………オタツさんは何を企んでるんだぁ?」



「オタツさんはサムを見込んだんだ、信用してるってコトだよ」



「な、何言ってやがる」いつも邪険に扱う人物からは想像出来ない。



「最後までミッションを完了するには難問だらけなのは…解っているよね?」



「あぁ、敵の数は半端ねぇからな」



「違うよ、問題なのは…内部」



「な、何言ってんだ、誰かスパイがいるとでも」彼らに対する信頼感が膨らみ始めたばかりだった。



「皆を信頼してくれてんだね……ありがとう、だけどね」



「やっと…本当の仲間が出来たと想ったのによぉ」



「だからって、事情が無いワケじゃないんだ」



「お前、スパイが誰か判ってんのか?」



「………スパイじゃないんだ、だけど、味方でもない」



「いったい誰ないんだよ」



「それは……」その段になると、海道は言葉を濁した。



草原を貫いていた風の流れが塞き止められて、どんより雨雲が空を覆うと、大粒の水滴が二人の全身を濡らした。







□ドゥキア機内




「ツワンド……仲間は呼んだ方がいいんじゃないか?」トラロアウスは角質化した唇の、尖った先をパクパクさせた。



「お前?あの子らを信用してないんだな」ツワンドが指したのは50体の未成熟キメイラが眠るカプセルだった。



「あれは…まだ未成熟だ、使い物にはならないぃ?」



「アイツラの助けを借りるくらいなら、まだコレらを使うさ」



「………ククっ」




「お、見えた」船体ドゥキアの前上方にATI の機体を確認した。



「狙うか」



「バカ待て…」



「何だぁ?」



「奴らも…キサルに向かう以上無策ではないはずだ、オレタチが迫って来てるコトも判ってるはず、なのに速度を上げてない。変に想わないか。まぁ急がずとも様子を覗えばよかろう」ツワンドはいつもの冷静さを取り戻していた。



















continued