□小型戦闘機“雷光”



武光は気を失っていた。旬をかばい全身を内壁に強打したのだ。


オタツは武光の視野を使って旬を見下ろした。「かわいそうに…」それだけ言うと、エヴァーダへ進路を変更した。






□アメリカ合衆国(北部)エリア





「………そう、迷わず付いて来なさい」Bax は血眼になって追尾して来るツワンドに振り向いた。




フェイスシールドを破壊されたツワンドは、とてつもない怒りと怨みにかられていた。作り物の美しかった人間の顔面は骨ごと砕かれ、シールドに入りきらないほど大きく腫れた。今ではトラロアウスよりも醜い野獣だ。





ツワンドが怒りを込めてソールドを振り下ろすと、切っ先に集まったエネルギーは稲妻となってBax の行く手に落ちた。


Bax はそれを左右上下、ギリギリで避ける。



「クソ忌々しいヒューマノイドぉぉぉ!キサマの全てをオレタチによこせぇぇ!」荒れ狂うツワンドには、もはや後先など意味がない。



《ツワンド!ヒュルゥ…お前、気が狂ったのか?!》トラロアウスの声がした。



「ウルサイ!お前は黙ってろ!」



《そうは…》急に無線が切れ「いかないっ」トラロアウスが現れ、ツワンドの両肩を押さえ、進路を阻む。



「何をする!トラロぉ!」



「ヒュルルル…お前、らしくない」



「黙れぇぇ!」ツワンドはトラロアウスの両腕目掛けてソールドを振り下ろした。



“ガッシーン”ソールドの刃はトラロアウスの左腕、硬い表皮を数ミリ切り裂き止まった。「フンッ」トラロが少し力むとソールドは弾けた。
怒りに任せて振り回していたツワンドの右腕からも力が抜けて“だらり”となった。





Bax は岩影に身を潜め、その様子を眺めた。





「………………醜いだろ」ツワンドが言う。



「ヒュルルル…ツワンドは醜くない」トラロはいつもより静かな口調だ。



「嘘をつけっ」ツワンドがうつ向く。



「ついてない。オレは嘘をつけない、バカだからな…」トラロは何かを期待している様子だ。



「……逃がしたぞ、ヤツを」ツワンドはまだうつ向いたまま言った。



「大丈夫だ、ヤツらの空路を分析した」トラロは自信に満ちていた。



「何処だ…ヤツらの行き先は」ツワンドが頭を持ち上げる。



「(XR )キサルだ…」



「………あのキサルへ向かってるのか?」



「あぁ、あのキサルへだ」




「あいつら……まだこだわっていたのか?」ツワンドには遠い過去だ。



「どうせ、ヒュルルル…死ぬんだ…オレタチ、オレタチも」



「トラロぉぉ!」ツワンドはトラロのみぞおち辺りに強烈な脚蹴りを噛ます。トラロアウスは真後ろに倒れて地面に突っ伏した。



「馬鹿かぁ?!キサマ、あそこに行けば欲しいものが全部手に入るんだよ!いったいどんな馬鹿のDNA を組み合わせれば、お前みたいなヤツが完成するんだ?!ヘドが出るわ」



トラロは地面に顔をうつ伏せた状態でパーソナルAI へアクセスする。情報は雪崩のように押し寄せる。





「そっかぁ…そうだよな?あそこに行けばオレタチもっと賢くなれるぅ!生きれるんだな?!オレタチ?!」するとトラロは、状況を忘れたロボットみたく無機質に応える。



「馬鹿ぁ!付いて来い!」ツワンドが言うと、トラロアウスは立ち上がり、“ドゥキア”の船底目掛けて二人はジャンプした。







岩影に居たBax がATI へ通信コードを打つ。《一機そっちに向かう》





□ATI 機内





「あ!バックスからです…“一機そっちに向かう”」



「いよいよ…本番は近いな」



「………はいっ」




“キサル”非危険空域まであと1.5キロメートル。







□トランスポーター機





目覚めたサムは、記憶を辿り自分がすべきコトを整理したが、どうもすっきりしない。


「クッソ………あのゴースト、手荒に扱いやがってぇ」サムは何度も頭を振った。




内壁はハイメタル。エヴァーダではこの材質をよく使うと聞かされた。変形圧力に強く柔らかいうえに軽い。飛行する物体には適しているのだという。




「微震動過ぎて…どこにいるんだか判らん」サムは頭をかきむしる。



「落ち着けぇ、サム、俺はどうすればいいよぉ」何気無くジャケットのポケットをまさぐった。



「ん?」2.5センチメートルの小さな立方体と…。「コレっ………て」実流樹や早瀬らエヴァーダに暮らす者全員が手首に装着しているセキュリティアだ。


「何だコレっ?」サムは立方体をあっちこっちひっくり返し観察すると諦めてポケットに終った。そして無造作にセキュリティアを手首にはめる。



“ブォォォォ……ン”いきなり激しい耳鳴りがした。



「ウゥッ……ナンダ?痛ぇ…クソ」強い目眩が押し寄せる。だんだん視野が狭まるなか、ふと手首に視線を向けると…セキュリティアのデジタル表示がみるみる数値を変える。



「………ザヒョウ…ジク……?」またサムは気絶した。






□“海道の意識”




「サム!おい!起きて!」



「ウゥッ…ダレだよぉ…?」サムは飛び起きた。



「カイドウ、忘れたの?カイドウだよ?!」



「ハッ?!」深い傷を負ったはずの海道が、無傷に見えた。




「驚いた?」




「お前…動けるのか?!どうなってんだ?ココどこだ」



「僕の意識だよ、ココに呼んだ」



「はぁ?!」サムは自分に起こっている出来事を整理出来ていない。



「キミはエーテルだよ、そして…僕の意識に入っちゃってる」



「………入っちゃってるって?」



「キ・ミ・わぁ…このセキュリティアを媒体にして、肉体とぉ、細胞核の、そのまた核の…クォークから意識電離した“エーテル体”」



「つまり?」



「つまり、オタツさんと同じ状況」



「エェ?!」サムは驚愕のあまり茫然とする。




海道の意識世界は現在も、穏やかな草原にあった。


















continued