早瀬を載せたトランスポーター機はATI の先導で間もなくドッキングした。外観には窓がなくハイメタルのボディーは原子爆弾級の衝撃波に耐えられるくらい頑丈だ。二機ある内、一機は政府要人専用とされ、この機は国内重要事項にのみ使用を許可されている補足機だった。
□トランスポーター機
「ミルキ、ホントに一人で平気?」サイモンが実流樹の顔を覗き込む。
「はい」と、真横に聞こえたサイモンの声に反応し、何気に振り向いた瞬間。「キャッ」と飛び退いた。
「ど、どうしたんだい?」サイモンには実流樹の驚き方が不可解のようだ。
「い、いえ、何でもっ」
ちょうど二人の背後で機内状況を確認中の朴が居合わせた。
「サイモン?」
「はい?」
「ミルキはまだウブなんだ、その辺のデリカシーは持つのがナイスガイというものだぞ」
サイモンには朴の忠告が理解できず、両手を広げて上げる昔からのオーソドックスなリアクションで茶化すと、それを見ていた実流樹はふと気が抜けたように微笑んだ。
朴は、そんなサイモンにちょっとだけ目を向けると「異常は無しだ」と言った。
「ね、ホントに大丈夫?」それでも心配性のサイモンは引き下がらない。
「サイモンさんっ…」実流樹は見せたこともないくらいにキツイ目でサイモンを見上げた。
「ウゥ…」サイモンは慌てふためいて一歩下がった。
「ここにオタツさんが居なくて良かったな、絶対バカにされてるぞ」
「そ…ですね、たぶん」
早瀬の身体はセキュリティアに同期するシステムベッドに横たわっていた。計算上、エーテルが分離してから、さっきの目眩で結合するまで三時間半ほどが経過していた。
よほど疲労していたに違いない。さっきの目眩はそれが原因だろうと朴とサイモンは考えていた。
「どっちにしても救助で戦闘に立つのはATI 。この機には救助した人々を連れ帰る大事な役割がある」朴が実流樹を真っ直ぐに見つめた。
「はいっ」実流樹は自分が背負った責任を感じつつ語気を強めた。
「………ミルキなら心配ないね!心配ない、ウン、そうだ」一人納得したふうにわざと強がりサイモンは先にATI に戻ろうとする。
「あ!サイモンさん」実流樹は立ち去ろうとするサイモンを呼び止めた。
「うん?」サイモンは少し照れた様子だ。
「心配してくれて…ありがとう」実流樹もはにかんだ。
「お、OK!幸運を祈ってるよ、ミルキ」サイモンははち切れんばかりの笑顔を見せた。
「ありがとう…絶対、ぜったい…皆を救い出そうね」
「………………ウン。ぜったい」
「ミルキ、何か小さなコトでも異常が起こった時はセキュリティアで必ず呼ぶんだ」サイモンに続いて機から離れようとする朴が言葉を残す。
「はい…必ず」実流樹も言葉を返す。
機を後にした朴は、遮断扉が閉まる寸前、実流樹の顔を改めて見返す。「………ん?」初めて出会った数日前の少女はもうそこには居なかった。
□小型戦闘機“雷光”
「オトウサン…」
「…ナンダ」
「…オネェ…チャン…」それから先の言葉を旬は言いあぐねた。
「何だ…ミルがどうか…したか」内心、訊きたくはなかった。
「オネェチャンの…センシラムが消えちゃうよぉ」旬は涙を浮かべた。
「……チクショウ…間に合わなかったか」武光は握った拳を震わせた。
武光が項垂れた時、突然「もう………もうダメだよぉ…オネェチャン、オネェチャンが…」旬が取り乱した。
「シュン!しっかりしろ!シュン!…」
“ドォォワ!ドッドドォォワ!”地響きは雷光の機体は下から突き上げた。
「ウゥっ」「ウワァ!」
機体はフワッと宙に舞った。硬い岩盤は突き上げられた力で尖った刃物に姿を変え、逆さまになった機体を待ち構えた。それにぶつかった反動でまた宙に浮き、それから赤黒い荒野を転げ落ちてゆく。
「…シュン、タケミツ!」Bax は雷光を追いかける。
全方、数メートル先を同じくジャンプするツワンドの姿。
必死で追いかけるBax 。
ツワンドは機体の後方寸前で、ジェットエンジンを起動させ、雷光の上空から落下方向へ爆弾を落とした。
ツワンドは爆弾で空いた穴に雷光が落ちたのを見計らいBax を向かう打つ構えを見せた。
「こんなに早く、オタクが顔を見せるとは…予想外だ」ツワンドはシールドの中で不敵な笑みを浮かべる。
「アナタは懲りないヒトです」Bax は過去に対戦した小夜子の声になる。
ツワンドとBax の間に生暖かい風が吹いた。
「フン、まだ人間扱いしてくれて…礼を言うよっ」ツワンドは瞬きの間も与えない電光石火、Bax の真上を飛び越えつつ携えたソールドを振り下ろした。
“ガッシーン”機動速度はツワンドの方がBax よりもコンマ2秒速い。ソールドはBax の右腕をもろに襲った。
「ハッ」着地した今度は刃を真横にスウィングして背中を切りかけた。
「クッ」Bax はよろめき転げながら刃を避ける。
「クックック………勝機は我らにあり!」ツワンドはうつ伏せに倒れたBax の背中目掛けてソールドを突き立てようと力を込めた。
ブンッ…シュー! グライドサークルが瞬時に起動。目映い光を目潰しにした。「ヴワッ」想わず後方へ退くツワンド。
Bax がジャンプして体勢を整え、退くツワンドの真正面に接近するとフェイスシールドの顔面を叩き潰した。
「ウオォ…ウワァ!」悶え苦しむツワンド。
「そっちは動ける!?」何事も無かったかのように、雷光に呼び掛けるBax 。
《任せときな!》
「じゃ行って!」
《アイヨ!》オタツは今、武光の身体に居た。
□トランスポーター機(下部格納庫)
機内は静まりかえっていた。ご丁寧に戦闘スーツは着脱され、毛布にくるまれたサムはスヤスヤと寝息を立てていた。壁から伝わる温もりと震動音が懐かしい…子供時代を想い出させた。
continued