□参謀長官室




「アナタは…その人物が誰か、知っているのですか?」イ.ギュリの声と瞳には、ある種の焦燥と絶望が混在していた。



「……正直、まだ断定できないでいます」急に直江の声が曇った。




「信じたいヒト…なのですね」




「…………はい」




「そう…ですか」どうやら直江は、この件で悩んでいる。そう想ったイ.ギュリは問いただすのを止めた。



「そんな状況で…作戦は続行出来るのですか?」




「実は…作戦遂行の為に切り札を用意してあります」




「と、いうと」




「現実的に考えても七人もの人間」と、言いかけて、直江は「あっ…六人と一体…でした」気まずい面持ちになる。




「それで?」まるで頓着しないイ.ギュリが訊いた。




「元々用意されていたオリジナルプランにはCSX を用いる人物が含まれてはいましたが、それ以外に私がメンバーとして潜り込ませてます」直江はなに食わぬ顔で続けた。



「CSX とは、あの…偶発性思念障害、あれは諸刃の剣ではないのですか?」イ.ギュリは急に不安そうな顔をした。



「えぇ、確かにそうですが、その能力を制御する上手の能力者が存在するのです」



「では、アナタのスパイが動向を注視し成功する確率は、どれくらい」



「作戦はおそらく、いえ、確実に成功すると確信しております」



「その…根拠は?」イ.ギュリは少し訝しい表情になった。



直江はそんなイ.ギュリの不安を面白がるかのように微笑むと「その人物には、実体が…ありませんから」と唇を結んだ。






□ATI



「クソっ…体がいうこと聞かねぇ」サムはオタツの洗脳を解こうと意地になる。



(無駄なあがきは止し
な)オタツがたしなめる。「あぅっ…グググっ」それでもサムは甲軟化戦闘スーツの装着ボタンを押させまいと必死に抵抗する。



「はっきりしなさい」横から手を伸ばしてボタンに触れたのはBax だ。



「な、何すんだってめえ!オィ…」本人でなければ反応しないはずの装着ボタンが機能し、サムの意識は完全にオタツに委ねられた。



筋力が支配され一旦萎れた頭がグッと持ち上がる。「じゃ行くか、サヨコ」オタツはサムの声を借りて言った。



「戦闘モードUP」Bax の全身を虹色の光が目映いばかりに輝く。



朴やサイモン、そこに実存しない早瀬までその光景にたじろいだ。



僅か5秒揺らめいた光の幕から解き放たれると、そこには銀色の戦闘スーツとフェイスシールドに身を包んだ戦闘アンドロイドの姿があった。




「バックス…アナタいつの間にパーソナルAI と同化を」早瀬は急激に独立化するBax に驚異を隠せないでいる。



「だから…言ってるのです、ワタシがアナタ方を選び理想通りのワタシを作らせたのだと」Bax のAI が小夜子のベーシックに侵食された証拠だった。



「うっ…」早瀬は言葉を失い茫然とした。



「サヨコ、行くよ」オタツがサムの言葉で急かした。



Bax はサムに相槌をうつと「グライドシステム起動」Bax が告げる。




すると「ウッワァ!」操縦席のサイモンが跳ね飛んだ。バギーから移設したロボットスーツのセッティングパーツからグライドサークルが分離して飛び出したのだ。それは空間をクルクルと浮遊し、まるで導かれるようにBax の背中にドッキングした。



「高度13800、南南西へ10000まで滑空、落下後システム作動」《グライドシステム、セットアップ完了しました》それはATIのコックピットを介したパーソナルAI からの応答だった。



「ア…アナタはどこまで共有化してしまったの」早瀬は自分が操られていたコトのショックと、Baxの持っている未知なる能力に対しての恐怖感で潰れそうな錯覚に陥った。



そうやってると突然早瀬がよろめく。実流樹の全身はビクンと衝撃が走り、朴はそれに反応して想わず抱きすくめようとした。当然のことだが抱きすくめられるはずはなく…床に倒れ込む前に早瀬のエーテルは消失してしまった。



「あぁ…」朴は出した両腕をもて余すと、溜め息を漏らした。



何とはなしに不穏な空気が漂う。





「そのままルートを変えずに飛び続けなさい」Bax がそう言うと、サムと共に転送コード化され、放射能と磁場に侵された空間へと放たれた。



時速250キロで落下するサム。強烈な引力を受け、歪みそうになる全身からスーツが分散するのではないかとオタツ自身も疑う程だ。




Bax 翻ると、きりもみ状態でサムに近付く、ほどなく接近したBax の腕は優しくサムを包むと全速力で武光と旬が乗る小型戦闘機へ向かった。





□アメリカ合衆国エリア



ひと昔前まで大国として君臨していた過去がまるで嘘のように、そこは宇宙放射能に侵され、地殻変動でうねった大地は無機質な建造物の瓦礫と赤い荒野を切り裂き、それそのものが今にも寄り付く何モノかを噛み砕かんとしていた。



その大地を悠々と低空飛行する空陸両用の大型飛行船があった。




「獲物の真下にはもうすぐだ」



「キュルル…クッククグ」



「いいかげん、解る言語を話せ」



「グヒ…ヒュルルル…文句があるなら役たたずのサンエンティストに言いな」



「へっ、余計な口答えだけはスラスラ喋るんだな」



「ヒュルルル…フラッシュガンを打つぜ」冷たい爬虫類の指が引き金を引く。鋭く光る青い光線が武光らの乗る小型戦闘機へ一直線に放たれた。



















continued