□RS 院内
Bax と実流樹が離れていた間、大した怪我もなく被爆も軽症だった旬は、肇の病室に入り浸っていた。そこへ、足止めを食らっていた武光が血相を変えて現れた。
「オヤジぃ!シュン!」武光は取るものも取り敢えず、つんのめりそうな勢いで駆け込んで来た。
「ア、おとうさん」目を丸くした旬が出迎えた。
「シュン…お前、大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと怖かったけど、バァバが助けてくれたから、もう大丈夫だよ」いつもの無邪気な旬が微笑んだ。
「あっあぁ、そうか」
「タケミツ…」ベッドに横たわっていた肇が目を覚ました。
「身体、どうなんだ?」少しぶっきらぼうに訊いた。
「まぁ…なんとかな」
「ミルは?」
「ここに………居ないのか」肇は気を失ったまま後のコトを全く知らない様子だ。
「知らないのか」武光は不安感を滲ませ「わ、わかった…俺が探す」
“一刻も早く探し出さなければ取り返しがつかない”武光に焦りが生まれた。
「おとうさん!ボクも行く」父親の気持ちを感じてなのか、ただ甘えているようには見えない。
「ダメだ」時に旬の能力を当てにすることもあったが、それでも武光には親の意地があった。
「なんでぇ」
「ちゃんと治してからじゃないとダメだって言ってんだ」
「…そんなに怖い顔しないでよ」鼻
をすすり、うつ向くと、じっとして動かない。
「………なぁ、頼む、困らせないでくれよ……シュン」武光は旬の両肩を抱き寄せた。
半泣きの旬がしゃくりあげなら言った。「オネェチャン…バァバと一緒だよ、きっと」
「なんで分かるんだ?」
「んん………どうしてかな」
「何してると…想うんだ?」
「集まってるみたい」
「集まってる?誰と」
「薄いヒト、それからバァバ、それから…兵隊さん」
「兵隊さん?」おそらく“薄いヒト”はエーテル体を表し、“兵隊さん”は…トンネル内で一緒だと聞かされたWG のセフス隊員を表しているのだろう。
「シュン…一緒に来るか」今は旬の能力に頼るしかない。幼い息子に侘びながら言った。
「うん、行く!」また無邪気に笑う旬だった。
武光は再び目を閉じた肇に視線を移すと、いつも肇に辛くあたる自分の不甲斐なさを恨んだ。
□RS 院内(仮想空間)
AI が造り出す仮想空間は山間の草原から荒涼とした砂漠へとフェードインした。ついさっきまでの爽快さは海道の背中をしたたる冷えた汗と共に流れ落ち、心地よい妄想は消え失せていた。海道は仮想空間にいながらにして夢を見て引き戻された。
「あぁ…いいとこだったのに」あの早瀬マリと、まさにデート中。告白を決行した後、見事キッスの返事を受け取っていた最中だった。…無理矢理に空間へ引き戻されたからモヤモヤが砂漠と化したワケだ。
「ま、待て…その前に僕は」自分がオタツと、この仮想空間で会って話したのを想い出す。
「………なんでだ?えぇっ…考えろ!考えるんだ!んあぁぁ!…結論が…出ないっ」仮想空間はあくまで仮想である。目を開かず、自分で息をしてるのでもない。今は五感を閉ざされた無味の世界でもがくだけだった。
□WG (セフス本部)
「やはり、スペインエリアでの戦死者にオセロン.サム、補佐役のサイモンD オニール…両名の遺体がありません」セフス先導2隊長、オズモンドが報告書を差し出す。
「それは、どうしてかな?」小難しい表情で下から睨むチャールズ。
彼は最近、WG 科学者チームから派遣された人物だ。聞くところ彼は、選りすぐりのエリートらしい。しかし、背丈は声変わりしたばかりの少年ほどで、屈強なセフス隊員を二人並べれば隠れるくらいに小さいし、神経質で嫌味でネチネチ小言を繰り返す女々しい彼を、正直周囲の人間はそうは想ってはいないのが現状だ。
「私の見解を述べるなら」
「述べる…なら?」
「脱走…ではないかと」
「ほぉ、脱走」
「はい」
「隊長の君が言うのだからぁ、たぶん…そうなのでしょ。で、どう処理してもらえるんです?」
「まずは、あらゆる手段を使ってでも彼らを逮捕し、喚問の席をもうけます」
「ま、良いでしょ」そう言ったチャールズの視線はオズモンドの顎にあった。
「それはそうとしてオズモンド君」
「はっ」一瞬、オズモンドはチャールズに対して注ぐ自分の眼差しが軽蔑を匂わせているのではないかと疑った。
チャールズは贅沢な葉巻を一服してから「いくら戦場に赴くからといって…無精髭はいかがなものかと?」
「すぐに剃っておきます」ひと言残して踵を返すと、オズモンドは歯を食い縛った。そして、ドアノブが壊れそうなほどに握った。
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