トンネル事件から解放された289名と肇、そして旬、ビーストとの戦いで負傷した海道はエヴァーダのリ.センストラクチャ(RS )を受けることになった。RS とは、細胞組織に潜む病的要因や外的損傷要因を遺伝子レベルで再構成し治すエヴァーダ医療システムである。それら負傷者は重傷AからEレベルに分類された。





□エヴァーダ002から003へのリニア連絡通路



RS のナースたちは、大量の患者数に慌てふためいていた。


「えらい騒ぎだぜ」サムがぼそりと呟いた。


「無理もないですよ、敵から攻撃受けて負傷したことなんて初めてなんだから」サイモンは死亡者を運ぶ担架ロボットを見送った。


「ところで、俺たちはどうすりゃいいんだ?」リニアガイドが人々でごった返すのを眺めながらサムが言った。


「あの…」サムとサイモンの背後から少女の声がした。


二人が振り返ると、髪の毛にホコリをかぶった少女が可憐な微笑みを浮かべ立っていた。


「……何か?用?お嬢さん」幼さの残った顔立ちだが容姿は大人びた少女に、サムは柄にもなく気後れした。


「いっしょに来ませんか?」直視する少女の瞳は二人を戸惑わせ、一瞬絶句させた。



「そうしましょうよ、サムさん、あの…」サイモンは冷静を装いつつ、少女の名前を訊こうと見つめ返す。


「あっ…ミルキです。タイガ、ミルキ」


「ミルキー!……いい名前だ、僕はサイモン」それほど歳の差もないだろうと見積もったサイモンはいっきに実流樹のファンになった。


「俺はサムだ。……ところで君といっしょにって、どこへ?」サムは兵士の目になる。



「キミタチは…レンゴウのセフス…ですね」唐突に現れたのは、あの戦闘アンドロイド。動作もスムースになったBax だ。


ドキマギするサムとサイモン。


「怖がらないでください」実流樹は急に心細そうな表情になった。


「いや、別に怖がってなんか…ないよ」言いながらサイモンは、さっきまで戦闘体勢だったアンドロイドの凄さを想い出し、つい後ずさってしまった。


「何にも説明されずにいきなり戦闘に駆り出され命の危険に晒されたあげく、当のゴーストは消えちまったんだぜ…」いっきに不満が口をついて出てくるサム。


「…私たちの為に…すいませんでした」実流樹はすまなそうに目を伏せた。


「ミルキ、君が謝らなくてもいいんだよ、僕らは君を救えて光栄なんだ」サイモンが恥ずかしげもなく言った。


サムは照れ臭そうに笑うサイモンに視線を投げると、苦笑いして再びBaxに視線を戻した。


「まず、アンタは…ミルキとどういう関係だ」


「私たちは…家族です」実流樹が即座に答えた。


実流樹の顔にちょっだけ目をむけた後、Bax は実流樹の肩に手を触れ「……カゾク…です」と答えた。


「そ、そうか………家族か」サイモンが引きつった笑いをした。


連合国(WG )では、せいぜい人間型ロボットが波及した程度なのに対して、独立国のココはまだ限られた存在だとはいえクローン技術とアンドロイドを融合した技術を手にしているのだ。これが驚異でないと誰が言えるだろう。サムは静かな屈辱に耐えていた。




「ホントは弟とオジイチャンが居たんだけど、リニアガイドで搬送されたから、私とバァバだけ」少しだけホッとしたように笑みを浮かべて実流樹は言った。



「バァバ?」どんなに精巧なアンドロイドであっても、それをさも人間扱いすることに違和感を抱いたサムだった。


「そうです。バァバ…」実流樹はそう言うと、Bax の銀色の手を握って見せた。


「………ワタシのマゴムスメ…です」Bax はサムとサイモンをじっと見て言った。



「ま、いろいろ事情はあるんだろぉが、訊かないコトにする」


「ひとまず、僕らは君を信じるよ」


一瞬サイモンの同意無き発言に苛つき、どこかに疑いを持ってはいたサムも、この国と目の前の家族に興味を持ち始めていたのはそれにも増していた。

「俺たちを必要としてんだろ?」と、しようがなく協力するのだと言わんばかりだ。



実流樹はサムの鋭い指摘に戸惑いながら、ちょっとだけ緊張した面持ちで「………はい」と応えて頷いた。


二人はいつの間にか実流樹の素直な態度に魅せられていた。これ以上の質問を止めて同行することにした。



「ここに連れて来られたのも運命かもしんねぇな、な?サイモン」


「そうですね」サイモンは実流樹の微笑に見とれていた。







□RS 院内Dレベル




緊急搬送された患者の中にはビーストとの戦いで負傷した海道の姿もあった。



「任せてくれと言った割には…」ベッドの横のバイオセンサーをセットしながらRS の資格も持つ早瀬は言った。


「…シュミレーションでは…上手くいったんです」言い訳する口調は、いつもの海道だった。



いつもなら嫌みのひとつふたつかぶせる所だが、早瀬は聞かぬふりをして「………でも男、だった」背中を向け、うつ向き加減だったせいで聞き取れない。


「………え?」想わずマスクを外して早瀬を見た。


「昔ね、学生の頃にライブラリーで読んだことあったの」


「ナニを?です?」


「500年から300年くらい前の…男性は、女性を守るコトに生き甲斐を感じていたんだってさ、それが”男らしい”ってこと、なんだってさ」早瀬の声には恥じらいが滲んでいた。



「…………へぇ…」恥じらう早瀬の背中を海道は夢心地に眺めた。



《お楽しみのとこ申し訳ないんやけどな、ハヤセくん、急いでイワクモへ来てくれへんか》ロマンチックなムードを台無しにする橋場の声がした。


「エ?今すぐは無理です」早瀬はむくれていた。


《エーテルなら来れるやろ》それを逆なでるように橋場にも苛立ちと焦りがあった。


「研究室じゃありません、身体の置場所が無いんです」早瀬は出来る限り落ち着こうと努力した。


《別に何時間も要らん》


「ここで離脱したら法律違反になりますよ」


《ハヤセくん、敢えてそこで離脱することで、どのガードからも秘密は守れるんちゃうか》いつになく橋場の言葉には棘があった。



「ハヤセさん…博士の言う通りにしましょ」海道は広めのベッドの脇に一人ぶんのスペースを作った。


「ナニ?そこに眠れって言ってんの?」


「…時間まで僕が守ってます」


「イヤらしい!いつからそんな野獣になったのよ!」早瀬は傷口を開きかねない程の力で海道の頬を思い切り殴った。


「………イタイ!」海道は半泣きになった。



「ハカセ」



《なんや》



「五分待ってください」



《しょうがないのぉ、五分だけやぞ》橋場は半ばキレ気味に通信を切った。






□イワクモ




広々とした会議室に、三人の男たちが居た。


「ハヤセさん…カイドウを好きなんですかねぇ」朴ウォンは海道の気持ちを代弁した気持ちになり、想わず恥ずかしくなった。


「なんだい?羨ましいのかい」オタツは舐めあげるような目付きでこう言った。


橋場は黙々とBKP とにらみ合い、データ分析に余念が無い。橋場にはエヴァーダと国民だけに留まらない人類への危機を感じ取れていたのだ。













continued