※早瀬は焦りを隠せなかった。少しずつだが洗脳剤が侵蝕する速度を上げてきたのに気付いたからだ。
□ATI 〔アクセスルーム〕
「カイドウくん!バックスを早く中和装置に!」早瀬はグライドシステムを使ってATIへ呼び寄せたのだ。
「ハイ!」海道は返事もそこそこにシートのBaxを操作して中和装置の挿入口へと誘う。
「用意はいい?」
海道はBKP をチェックすると……。
「バイタルOK、パーソナルAI 停止チェック、ad2安定してます」
「エレメント中和開始」早瀬が応えた。
「開始します」海道は起動スイッチを押した。
エナメル質の表面が虹色に揺らぐと、カプセルの中がBaxを透過した。自らの宿命に何を想うのか…Baxが目を閉じた姿が、海道には神々しく映っていた。
「カイドウくん!」
「あっハイ」
「FF (フィラメントファクター)に変化は?!」
「ハイ」海道はBKPを画像化した。
ギザギザのグラフが急激な変化を物語る。
「………あと少し、あと少しだ…安定してくれ」
「まだなの?!」早瀬の焦りに坑がうかのように五色の折れ線が秒針毎に入れ換わり、安定しない。
「……なんで?なんで安定しないの?」
「頼む、安定してくれっ」
残された手段はBaxとFFがナノプルトニウムの影響を受けずに連携すること。それが可能ならば人間へのFF 注入も可能なのだ。
「何か他に方法が………」
「アタシがサヨコに入ったら…なんとかなるんじゃないのかい」いつの間にかオタツが傍らに居た。
「オタツさん!」「そっかぁ!」
「どうやらアタシの出る幕かい?」オタツはそう言うと、空気中に霧散した。
二人はBKPグラフィックに食い入る。恐る恐る眺める。
「あ……」「やった?」オタツの助言結果は直ちに現れ始める。
ギザギザだったグラフはほんの数秒で緩やかな波形に落ち着いた。
「オタツさん!!やった!」
(さぁ!今の内だ、アタシごとサヨコを投下するんだよ!)早瀬は実流樹にも届くように念波を送った。
□トンネル内
サムとサイモンは人々を置き去りには出来ず、トンネルに残っていた。
「オイ、しっかりしろよ!すぐだ、もうすぐ助けが来るからな」サムは散らばって倒れていた人々を一ヵ所に集めると、額の汗を拭って言った。
「気を確かに!必ず助かります!」サムは一人一人のセキュリティアにアクセスし終わると、バギーの運転席から叫んだ。
キュウゥイーン………。
特殊な機械音が地面を響かせた。
「オ?!来たか?!」サムの言葉が合図になり、そこに居合わせる全員が外に目を向ける。
「………アリガト」サムが最後に担いだ男が言った。
「ン?」サムは意外な表情をした。
「アリガト……」男はもう一度そう言うと、静かに瞼を閉じた。
「………オイ?、ナンダヨ……もうすぐじゃねぇか」サムはがっくり肩を落とすと、男の着ていたコートを男の亡骸に被せ、十字をきった。
「ビーストよ!」一人の女が静寂を切り裂いた。
「嘘だろ!」サムがガラスに近付き確かめた。
「………どうしよ…」サイモンが震えていた。
荒野の地面から土煙を巻き上げて現れたのは5体の硬い甲羅で覆われたビーストだった。
「チクショウ……」サムが苦虫を噛んだ。
「僕が行きます」決心したサイモンが言った。
「はっ?」サムはわざとサイモンを見下す目付きをした。
「…何ですか?!僕じゃ役に立たないとでも?」
「………んや」サムは、震えを必死で止めようとするサイモンをニヤリと見返した。
「じゃ、行って来ます」
「俺が行く」
「ダイジョウブです!僕が!」
「お前俺が言ったコト覚えちゃいねぇな?」
「………覚えてますよ」サイモンはインドエリアでの説教を想い出していた。
「お前は全員の命を見てろ、どうせ俺に出来るのは奴らとドンパチやるコトだけだしなっ」
「……サムさん」
「じゃ、行ってくらぁ」言い放ったと同時に、サムはバギーが開けてきた穴に飛び込んだ。
「サッ…サムさん!」サイモンが叫んだのは戸惑いの後だった。
□ATI 〔 コンタクトルーム〕
「早瀬さん!ビーストが!トンネル付近に現れました!」
「慌てるな、アタシを早く投下しろ!」オタツと同化したBaxはフェイスシールドでスタンバイしていた。しなやかな立ち姿は、まるで中世の女騎士を想わせた。
continued